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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -スピリチュアル・ツアー編 7-

【精霊が帰る夜】

1人もクロコダイルの夕食になることなく、無事自分たちの夕食だけを確保した僕たちは今晩のキャンプ地であるレッド・クリフの海岸へと戻ってきた。

宵闇にたたずむ

夜の世界に溶け込むようにすこしずつ輪郭が曖昧になっていく。空には月が浮かんでいた。

すでに太陽は水平線のかなたに隠れ、その名残りが空を複雑な色に染め上げていた。僕は日暮れから夜に向かうこのほんのすこしの時間が大好きだ。

空の色は言葉にできないほど複雑で深い。昼の鳥や動物が家路につき、夜の動物たちが動き始める時間。モノの輪郭は闇に溶け込むかのようにその意味を失い、より精神的なものが力を増してくるように感じる。

僕たちが曖昧になっていくのとは対照的に夜空に輝き始めた星たちが存在を主張し始めていた。

しばらくして暗闇の中にポッと小さな明かりが灯り、あたりの砂浜やブッシュを柔らかく浮かび上がらせた。リチャードが焚き火を起こしてくれていたのだ。いつも思うのだが焚き火の光は気持ちが落ち着く。事実その光に浮かび上がるメンバーの表情もどこか柔らかく落ち着いているように思う。

最初は小さかった火も時間を経て大きな炎へと変わっていく。それに合わせるかのように夕飯の準備を始めた僕たちの動きも活発になっていった。今夜の夕食は先ほど川で釣ったキャットフィッシュが3匹とジャガイモに食パン。そしてマルコスが満を持したようにビニール袋から取り出したのは牡蠣の燻製の缶詰だった。この場面で牡蠣の燻製??僕は彼の感覚をいまだに理解できないでいた。魚とジャガイモはアルミホイルに包んで火の中へ。それが焼けるのを待っている間にマルコスおすすめの燻製を焚き火で焼いた食パンにはさんで食べたのだがこれが結構うまい。しかしマルコスの「どうだうまいだろ?」という表情をしているのを見るとなぜか悔しかった。

それをほおばりながら僕たちは今日の体験の素晴らしさをそれぞれに噛み締めていた。ふと気が付くとリチャードがいない。どうしたんだろう?とあたりを見回すと、大きな焚き火からすこし離れた場所にもうひとつ小さな焚き火を起こしているリチャードが見えた。

「あれ?なんでそこにも焚き火起こしてるの?」
「いや・・別になんでもないよ・・」
「ふーーん・・」

あとで聞くとマルコスも同じ質問をしてみたらしいのだが、答えは同じだったらしい。彼のこの不思議な行動にすこしひっかかりながらも僕は深く考えるのをやめた。それには意味があるのかもしれないし、ないのかもしれない。だけど彼がなにも語らないのならそれはそのままにしておくべきだと思ったからだ。彼はしっかりと焚き火を起こしてから僕たちの会話の輪の中に入ってきた。あたりはすっかり暗くなり夜空にはミルキーウェイがゆったりと流れていた。

「ミルキーウェイの中にはエミューがいるのを知っているかい?」

夜空を見つめながらリチャードがぽそっとそう呟いた。 そう言われてよくみると白い輝きのなかに周りより暗くなっている部分が細長く続いているのがわかった。それがエミューの喉の部分なのだとリチャードは説明してくれた。 それから彼らのトーテムであるムササビのストーリーや、このあたりのブッシュに多く生える椰子の一種であるサイカ・ツリーのストーリーなどを聞かせてもらう。彼のゆったりとした話方が焚き火の炎の揺らぎにリンクしているようで、その効果も手伝ってかとても心安らぐ時間だった。

「あっ!魚っ!忘れてた!」

ローランドのその一言で僕たちは我に返った。そうだキャットフィッシュを焼いていたんだっけ。炎の中から取り出されたアルミホイルの中からジュージューと食欲を誘う音と香ばしい匂いが漂ってきた。さあ!今日のメインディッシュにありつくとするか!

「待つんだ!まだ精霊が彼らの家に帰っていない!」
「え・・・?」
「彼らが家にたどり着くまで待たなければならない・・」
「・・・」

この言葉に全員がさっきまでの勢いを失い、あたりはシーンと静まり返った。ジュージューと音をたてるアルミホイルを見つめながら時間だけが過ぎていく。するとマルコスが静寂を破るようにこういった。

「じゃあ僕たちはこれをどうすべきなんだい?」
「・・・。彼らの精霊が無事家にたどり着けるようにしなければいけない。彼らを砂に埋めて明日の朝まで待とう・・」
「・・・。OK・・では埋めよう。みんなそれでいいか・・?」

マルコスは彼らの考え方を尊重しようと僕たちに提案した。僕はその意見に賛成だったし、ユウジやノン君も異論はないようだった。ただローランドだけが最後まで理解しきれない様子でいたが最終的には全員一致で埋めることにした。

無言でその魚たちを砂浜に埋めていく行為はまるで彼らを埋葬しているかのようだった・・。

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