【クロコダイル登場】 お昼ご飯を食べるため、そして今晩の夕食になるであろう魚を釣るために海と川が混じりあう場所に移動することにした。その川までの移動中、些細だが僕にとってとても印象深い出来事があった。それは僕たちがBelyuenを訪れたという話をしていたときだった。その話を静かに聞いていたリチャードが急にこういったのだ。 「Belyuenの歌が聞きたい・・」 それを聞いて僕はマルコスに彼が持ってきていたSongs From Northern Territory1をかけるように頼んだ。そこにはBelyuenの人たちの歌が何曲か収録されていたからだ。 【Belyuenコミュニティの名曲が収録されている音源】
Belyuenの歌をじっくりと静かに聞き入るリチャード。彼は結局最後まで何も語ろうとはしなかった。けれどもそれはBelyuenとWadeyeの関係の深さを感じさせる印象的な出来事だった。 川に行く前にマングローブ・ブッシュに餌となる貝を採りにいく。そこまでの道のりは柔らかい砂が続く、まさにオフロード。無理して借りた高級4WDの実力をあますところなく発揮できるポイントだ。車のおしりが左右に振られるのを体で感じながら目的地のマングローブ・ブッシュまで豪快に走り抜けた。
円型のリールに釣り糸が巻きつけられたシンプルなものだが、これが意外に使いやすい。その道具を手に川岸から魚を狙い始めたのだがここはアボリジナル・ランド、状況はそう簡単なものではなかった。 川岸に降り立った僕たちを待っていたのは気持ちがいいほどよく滑る泥に覆われた不安定な足場だった。そこから1メートルほど下には濁った水が塊となって流れる巨大な川が横たわる。足を滑らせてこの川に転落すれば無事に上がってこれる保障はない。しかも更に僕たちの不安を煽るできごとが起こった。 「あーーー!!あそこ見てっ!クロコダイルやっ!でかい!」」 ノン君がそう叫びながら指差す先を見ると濁った川の中心あたりにスーーーと音もなく大きな影が浮かび上がっていた。本当にでかい!顔の部分だけで1m以上はありそうだ!僕たちが目撃したのはWalking with Spiritsフェスティバルのときに紹介したたシャイな性格のフレッシュウォーター・クロコダイルではなく、ソルトウォーター・クロコダイルという種類。海、川の両方に生息し、その体長は6〜7mにも達するといわれ、時には人間も襲うこともあるという獰猛な種類だ。そのクロコダイルは僕たちを挑発するかのように数秒間姿を見せたあと、また音もなくスーーーと川の流れに消えていった・・。 「みんな川には転落するなよ!僕は君たちに事故にあってほしくないんだ!」
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