【そして旅立ちの時】 よほど疲れていたのだろうか、僕は一度も目が覚めることなく次の日を迎えた。昨日はたった1日とは思えないほど深く濃い時間を過ごしたのだから無理もなかった。寝袋の足元から冷たさを感じて目を覚ますとテントの壁の内側にビッシリと水滴が張り付き寝袋を濡らしていた。隙間から外を覗くと地平線がうっすらと明るくなり始めたところだった。 隣で眠るノン君を起こさないように注意しながらゴソゴソとテントを這い出す。外の空気はまだ夜の気配を残し、ヒンヤリと冷たく漂っている。旅のメンバーはまだ誰も目覚めていない。
今回の旅の一番の目的であったClaver Demmuに会うことはできなかった。だけどそのおかげでリチャードという素晴らしい人に出会うことができた。彼は僕たちに今までとは違う側面からアボリジナル・カルチャーの素晴らしさ、奥深さを教えてくれたように思う。 彼と出会えたことでこの旅は僕のオーストラリアの旅のなかでも特に印象に残るものになった。今回はキャンプに出ていたためほとんど実感することがなかったのだが、現実的な側面としてWadeyeコミュニティの治安はほかのコミュニティより悪く、殺人や強盗、恐喝、多発するスピードオーバーによる事故死、その他さまざまな問題を抱えているようだ。僕がダーウィンに滞在中も2度ほどWadeyeコミュニティでの事件が新聞をにぎわしていた。そのことに関して昨日の夜リチャードはこう話してくれた。 「僕はWadeyeコミュニティに悪い噂が絶えないのが悲しい・・。君達のようにもっと僕たちのコミュニティを訪れる人が増えてほしいし、僕たちの良い面をもっと知ってほしいんだ。」 そのあと彼は僕にこの記事を書くこと、そして今回の旅の写真を使用してもよいという許可を与えてくれた。より多くの人に彼らの思いが伝わることを願って。 岩の上に座りぼんやりと海を眺めてどれくらいの時間がたったのだろうか、ふと気が付くとあたりはすっかり明るくなっていた。テントの方を見ると他のメンバーが起こした焚き火の煙が見えた・・。
帰りのフラットダートを土煙を上げながら駆け抜ける。 次々と後ろに流れ去っていくWadeyeのブッシュを眺めながら「またここに戻って来よう・・・」と思った。こうして僕の憧れの地であったWadeyeコミュニティへの旅は幕を閉じたのだった。 筆者が7月半ばより約3ヶ月間オーストラリアに向かうため、この「Wadeye -スピリチュアル・ツアー編」をもってブラブラ日記はいったん終了とさせていただきます。今回の旅では前回出会った人々を訪ね、また新たな地域へも訪れる予定です。帰国後、ブラブラ日記第2期として新たにスタートしたいと思いますのでよろしくお願いいたします。ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。 出口晴久 -2005年6月22日- |トップへ|
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