【ついに3日目】 1日目、2日目と期待を大幅に裏切るスタートとなった今回のフェスティバルだったのだが、3日目は少し違っていた。なぜなら、僕はこの日非常に重要な出会いをすることになるからだ。 3日目はディジュリドゥ・コンテストが開催されることもあり、午前中からかなりの人が集まってきていた。車で乗りつける人も増えてきて入口付近にあった僕らのテントの横を、いかにもアウトバックを走ってきました風のランクルやポップなペイントが施されたボロボロのバンなどが次々と通り過ぎていく。そして派手なオレンジ色の使い込まれたステーションワゴンが僕らのテントの前を横切ったとき、僕とユウジはそのバンの後部にディジュリドゥが満載されていることを見逃さなかった。 「ユウジ!さっきの見た?」 僕らがそのステーションワゴンにたどり着いた時、そこにはすでに十数本のディジュリドゥが車に立てかけるようにして並べられていた。それらに施されたペイントは遠くから見てもわかるぐらいに美しく、しかもそのしっとりとした色合いからオーカー(岩を砕いて作った自然顔料)で描かれていることがわかった。 最近のディジュリドゥのペイントはオーカーに似た色合いをもつ合成顔料やオーカーとは似ても似つかない塗料が使われることがほとんどで、オーストラリア現地でも本物のオーカーでペイントが施されたディジュリドゥにはなかなかお目にかかることはできない。僕らが興奮しながらそれらを見ていると車の中からテンガロンハットをかぶった、いかにもオージーらしい雰囲気の髭のおじさんがビール片手に現れてこういった。 「遠慮なく吹いていいぞ」
「音を聞いてわかったよ。」 この髭のおじさんの名前はMitchin。彼がミンディルビーチを歩いていると、いつもとは違うディジュリドゥの音が聞こえてきたので近づいてみると僕がバスキングしていたらしい。ほとんどの人たちがコンテンポラリーの吹き方をしているマーケットの中で、僕がアボリジナルの人々の伝統的な吹き方を勉強しているのが印象的だったらしい。それでその音を覚えてくれていたということだった。 そこからいろいろと話を聞いてみると、彼は退職したあとダーウィンの近くのブッシュに住みディジュリドゥを作るという生活を何年か続けているらしい。そこに並んでいたディジュリドゥはすべて彼が作ったのだという。さらに驚いたのはペイントまで彼がしているということだった。オーカーを拾ってきては砕いて顔料を作りコツコツとペイントしていくのだという。その技術の高さは並大抵ではなく、パッとみただけではアボリジナルの人が描くものと見分けがつかない。
「おっ!よくわかったな。そのとおり。この曲はRak Badjalarrのディジュリドゥプレーヤー、Nicky Jorrokから直接教わったんだよ。」 なんという偶然!なんという驚くべきめぐりあわせ!僕がもっとも会いたかったディジュリドゥ・プレーヤー、Nicky Jorrokを知っている人物がついに現れたのだ。しかも彼から直接教わっている人にこんなところで出会うことができるなんて!CD「Rak Badjalarr」についてはGORI君のディスコグラフィ内を参照してください。
僕は日本にいた時にこのCDを聞いて彼の音に感銘を受け、オーストラリアに来たということ、彼に会うために色々と手を尽くしてみたがきっかけが掴めずにいたことなどをMitchinに話した。 すると彼はこういってくれた。 「それならこのフェスティバルが終わったらうちに遊びにくるといい。その時にNickyに会わせてあげられると思うよ」 ついに彼に会える!そう思うと僕はうれしくてしょうがなかった。Mitchinによると彼はまだバリバリの現役でディジュリドゥを吹いているらしい。しかも彼らのコミュニティではRak Badjalarrに収録されている歌が普通に歌われていて、たぶん僕らが訪れれば、みんなで歌ってくれるだろうということだった。 僕はMitchinに必ず連絡することを約束して自分のテントに戻った。ついに、ついにNicky Jorrokに会える! |トップへ|
|