【つらい現実】 Nauiyuコミュニティにたどり着いてから数十分後、 一番の目的であったディジュリドゥの購入というイベントがアッという間に幕を閉じてしまうことになった。 正直な話、これは相当ショックだった。 目的を失った3人はまるで糸の切れた凧のように、 フラフラとアートセンター内に散らばっていった。 僕たちはディジュリドゥにあまりにも期待を抱きすぎていたので意気消沈したのだが、冷静になって見回してみるとこのアートセンターはなかなか面白かった。特にペインティングはこの地域独特のスタイルが確立されており、人魚やトンボなどのモティーフがサイケデリックな色彩と文様で描かれ、現代アートだといわれてもわからないぐらい。最初はあまりのショックに口数も少なかった僕たちだったがそのアートの面白さも手伝って次第に元気を取り戻していった。
Merrepen Art Festivalは基本的にスポーツとアートの祭典ということになっている。しかし実際には主眼はスポーツイベントの方に置かれているような気がした。事実、僕らの喪失感をよそに、コミュニティに入ってすぐにあるグラウンドには大勢の人々が集まり、試合が白熱しているのか相当な盛り上がりをみせている。 別にスポーツ観戦が嫌いなわけではない。ただ・・・と、やはり3人ともやり切れない気持ちを抱えていた。ブラブラと目的もなくコミュニティを散策した後、車に戻り誰ともなくディジュリドゥを持ち出し吹き始める。するとその音を聞きつけたのか数人の若者のグループが足を止めた。 僕たちはすかさずこう話しかけた。 彼らは恥ずかしそうに笑いながら「僕らは吹けないよ」と答えた。 「人通りの多い場所で吹けばきっと誰か声をかけてくれるさ・・・」そんな気持ちでそれぞれ自分のディジュリドゥを持ち出しテントが立ち並ぶ広場のそばで吹いてみることにした。ここなら人通りも多いし目立つからきっとすごいプレーヤーの人が声を掛けてくれるに違いない、そう思いたかった。 1人、2人とアボリジナルの人たちがすぐそばを通り過ぎていく。若者のグループ、おじちゃんたち、おばちゃんと子供たち・・・。みんな不思議そうに眺めるだけで誰一人として声をかけてくれる人はいなかった。そのままどんどんと時間だけが過ぎていき、いつしか日も傾きかけていた。頂上まであがったテンションは、どん底まで下がりきって一日目が終わろうとしている。 「明日があるやん・・・な」 パンフレットには明日は伝統的なパフォーマンスがあると書いてある。それに期待しようよ、とグランドの声援が遠く聞こえる静かな広場でお互いに励ましあう3人がいた。 |トップへ|
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