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ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Merrepen Art Festival編 1-

【Merrepen Art Festival】

Merrepen Art Festivalは、毎年5月から6月ごろにNauiyuというコミュニティで開催されるアボリジナルの人たちのアートとスポーツのフェティバルだ。2004年は5月29日〜30日に開催された。僕にとっては、これがはじめてのコミュニティで開催される大型フェスティバルということもあり、とても楽しみにしていた。

先生の車

先生から借りた車 相当なガタピシ車だった これがあとで大変なことにつながっていく

このフェスティバルに参加したのは3人。大学でYolngu語を勉強していたのりくん、ダーウィン郊外にあるハンプティドゥという町のファームで働きながら、ディジュリドゥ職人を目指していたユウジ、そして僕の3人。

お金もなく交通手段もなかった僕たちは大学の英語の先生から車を借りてフェスティバルに向かうことにした。


【あがるテンションとは裏腹に・・】

3人は意気揚々と車に乗り込み、すでに上がりはじめたテンションを抑えるのに苦労している状態。「みんな結構ええ大人なんやから」と、たしなめる人などいるはずもなく騒ぎたい放題。まるで小学校の遠足だ。

そんな僕らのテンションとは裏腹に、車のほうはどうも調子がよくない。ブレーキを踏むたびにギーギーと異音が聞こえる。アクセルはベタ踏みで90kmが限界。それ以上出すとハンドルはぶるぶる、車体はガタガタ、タイヤのひとつでも飛んでいきそうな勢いだ。あまりの調子の悪さにちょっと不安になり、いったん止めてボンネットを開けてみる。

「うっ、うーーーむ・・・」

ボンネットのなかには僕らの不安を煽る光景が広がっていた。赤く錆びたパイプ、漏れるオイル、ボロボロになって崩れかけたゴム製品。そしていたるところでひび割れているファンベルト。いかにも危ない。一瞬言葉を失ったものの、結局僕らが下した判断は

「まっ、なんとかなるやろ」
「なるなるっ!」

全員一致で即終了。
「おいおい!」と今ならつっこめるけれど、その時は仕方がなかった。実際、修理している時間もお金もなかったし、上がっているテンションがあらゆる不安を吹き飛ばしていた。


【いざフェスティバルへ!】

ダーウィンから3,000km以上先のポート・オーガスタ(Port Augusta)まで大陸を縦断し、延々と続くメインロード、スチュアート・ハイウェイ(Stuart HWY)。この道を使って一路100km先のアデレード・リバー(Adelaide River)を目指す。一時間も走れば、あたりはどこまでも続くブッシュに変わっている。僕らは誰ともなく窓を開け、上がりすぎたテンションを発散するかのように、

「うおーーーーアウトバックーーー!」
「ギャーーーブッシューーー!」

などとわけのわからないことを叫びまくった。

ノーザンテリトリーではアウトバックに入りすこし走るとスピード制限がなくなる。ここから周りの車のスピードは一気にあがり、みんな130〜150kmぐらいで走り始める。僕らのガタピシ車には過酷な状態、ヒーヒー言いながらなんとか平均80kmをキープ。

でも他の車には止まっているように感じるスピードだ。ピカピカの高級車からボロボロのランドクルーザーまでビュンビュン僕らを抜いていく。そんな状態でも僕らのテンションは一向に下がる気配がない。僕らはこのままの状態を保ったままコミュニティまでの道のり約200kmを乗り切った。

Stuart High Way

北のダーウィンから南のポートオーガスタ(Port Augusta)まで延びるスチュアート・ハイウェイ 隣に見えるのは大陸縦断鉄道Ghanの線路だ


【はじめてのコミュニティ】

アデレード・リバーという町を過ぎてすぐの所からスチュアート・ハイウェイをそれ、横道に入る。ここからはほとんど車も通らない、基本一車線の道路がつづく。起伏もあって対向車が来ているのがわかりにくい結構ハードな道だ。その道を延々と走り続け、途中いくつか分岐があり、「ほんまにこの道であってるんやろうか?」と不安になり始めた頃にコミュニティが現れる。

Nauiyuの看板の前でノリくん

Nauiyuの看板が見えたときは本当にうれしかった なので記念撮影

コミュニティは思ったよりきれいに整備されていて、コミュニティのすぐ横には飛行場まである。地図で見ると、まわりには全く何もない場所なのだけれど、すごい田舎に来たという印象はほとんど感じない。ほかの地域で訪れたコミュニティもどこもほぼ同じ印象だった。

まあ町の印象はともかくとして、僕らの気持ちはすでにアートセンターへと向かっていた。 ここNauiyuコミュニティはWadeye(Port Keats)コミュニティに向かう道の途上にあり、 すぐそばのDaly Riverで録音されたディジュリドゥの音源などもある。 当然期待するのはWonggaスタイルのディジュリドゥの購入である。 他のものにはわき目も振らずアートセンターを目指した。


【Port Keats/Daly River/Darwin周辺地域の音源の紹介】

トゥーツをまったく使わず、洗練され調整された倍音がうねる、高度に完成された西のスタイルWongga。北東アーネムランドのYolnguのスタイルとはまた違った複雑さ、おもしろさがあります。

ARNHEM LAND ARNHEM LAND -Authentic Australian Aboriginal Songs and Dances
CD 1957・1993年 Larrikin
DIDJERIDU DIDJERIDU -The Australian Aboriginal Music
CD 1957・1993年 PlayaSound
RAK BADJALARR RAK BADJALARR -Wangga Songs for North Peron Island by Bobby Lane
CD 1959-61-62-86-91-97・2000年 AIATSIS

※アルバムのジャケットをクリックするとEarth Tubeの「Music Chaser」で各音源の詳細を見ることができます。


【ディジュリドゥはいずこ?】

アートセンターは町の中心からすこし離れた場所にあり、ビックリするほどきれいな二階建ての建物と、大きな倉庫のような建物に分かれていた。二階建ての建物は、まるで大阪や京都にあるおしゃれなギャラリーのようで、僕らのイメージとあまりにもギャップがあった。それは僕らのコミュニティに対するイメージが一方的なものであことに起因しているとわかっているのだけれど、やっぱりすこし残念だった。

僕らはまず大きな倉庫のほうに向かった。アートセンターは翌日からのフェスティバル本番に向けて準備の真っ最中でペイントを壁にならべたり、Tシャツやカタログを並べたりしているところだった。僕らは、はやる気持ちを抑えつつ中に入って行った。そして・・・

ざっと見回すと・・・ない。
ちょっと歩いても・・・ない。
ハハハ・・・まさかね。
3人ともなにも言わないがその表情はひきつっていた。

そんな不安を隠しながら手分けして詳しく捜索することにした。すると・・・

「あったぞーーーーー!」

ユウジだっただろうか、倉庫の一番奥まった場所にある荷物の向こうから救いの声が聞こえ、僕らはいっせいにそこに集まった。そして見たものは・・・

明らかに吹きようがないほどマウスピースのでかいものが一本。そして貫通していると思われるクラックが入りまくったものが一本。以上。

その2本を眺めながらボー然と立ち尽くす3人。僕らが一番期待していたディジュリドゥの購入というメインイベントはアートセンター到着からわずか数分で幕を閉じたのだった・・・。

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