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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -森の彼方にMatamata編 3-

【イダキ・カッティング with Mirarra & Terrence】

なんともいえない懐かしさを感じる村Matamataに無事たどり着いた僕たちは、すこし休むとすぐに一番の目的であるMirarraとのイダキ・カッティングへと繰り出すことにした。

その前に「彼も一緒にイダキ・カッティングに行ってくれるよ」と言ってMirarraから紹介されたのが、長身でガッチリした体に真っ黒のサングラスといういでたちのイカツイ青年だった。彼の名前は「Terrence Gurruwiwi」。

彼はセレモニーの場でのみ活躍するイダキ奏者であり、Mirarraと同じように最近注目を浴びている有望な若手イダキ職人の1人だ。Matamataという場所に住んでいることもあり、一緒にイダキ・カッティングに行ける可能性の少ない人物の1人だと思う。僕達にとってとてもうれしい助っ人が一緒に来てくれることになった。僕もTerrenceのイダキを何本か吹いたことがあるのだが、彼の作るイダキは不思議と過去の音源で登場するようなザラザラとしたクラシカルな響きを持っているような気がする。彼の製作したイダキはEarth Tubeでも見ることができる。

 ●Gaypalwani(Terrence) Gurruwiwi作のイダキ

ブッシュのまっただ中
ブッシュの中はどこを見ても同じ風景に見える。迷えばまず帰ってこれないだろうな・・・。
最終的に僕たち4人とMirarra、Terrenceと彼の子供、そして一緒に行きたいといった少年が一人乗り込んで、計8人の大所帯でブッシュへと繰り出すことになった。

コミュニティからすこし道を戻りながらカッティングするポイントを探る。ブッシュを見る彼らの目は真剣だ。そして「よしっ!ここにしよう!」という指示があった場所で車を道端に止める。するとMirarraとTerrenceは斧とノコギリだけを掴んであっという間にブッシュの中に分け入っていった。

Djaluもそうだが普段ゆったりと生活していても、こういうときの彼らの動きは驚くほど機敏で迷いがない。何度もイダキ・カッティングに同行し、その動きに慣れているGORIくんは彼らのあとを追ってズバッと車を飛び出していった。しかし慣れない僕などは「脱いだ靴がどこかに・・」とか、「水も必要だしな・・、あとビデオが・・」などとモタモタしてしまう。ふと気付けば彼らはかなり遠くまで行ってしまっているじゃないか!僕は慌てて彼らの後を追いかけた。

ある程度ブッシュに分け入ると途中からMirarraとTerrenceは別々の方向へ進み始めた。というわけで僕らはどちらについていくか選択を迫られることになる。

GORIくんは初めて一緒にカッティングに行くTerrenceがどんな木を選ぶのか気になるらしく、彼のほうについていった。う〜んTerrenceも気になるけど僕はやっぱりMirarraでしょう!!ということでノン君、まゆみとともにMirarraに同行することにした。

イダキを探しはじめたMirarraは車のなかで鼻歌を唄っていたさっきまでとはかなり違っていた。真剣な表情でブッシュを黙々と歩き、時に立ち止まり、あたりを見回し、目ぼしい木を見つけると中の空洞の具合を確認するため斧で軽く叩いていく。これはと思ったものには実際に斧を入れ中の空洞を確かめる。

イダキ・カッティングはこの作業の繰り返しになるのだが、よい職人はこの時点でイダキに適した木を選ぶ能力が高いといえる。

カッティングをするMirarra
つぎつぎに木を選んでいくMirarraは職人の顔つきに変わっていた。

Mirarraに初めて同行する僕にとって興味深かったのは、彼が目をつける「木のサイズ」。Djaluファミリーが選ぶものに比べると細いものが多く、時には腕ぐらいの太さのものまで含まれていた。

Dhuwa半族GalpuクランであるDjaluに対して、MiraraはYirrtja半族Burarrwanga Gumatjクランの出身。それぞれ異なったセレモニーや唄があり、使われるイダキのサイズや名前もそれぞれ異なっている。彼はBurarrwanga Gumatjクランのイダキに最適な木を吟味していたのだ。 Gumatjクランのイダキについては、2004年のGarmaフェスティバルのYidaki Master ClassでDjaluが使用していたり、メルボルン在住のGuanさん(※過去の記事を参照)のところで実際に吹かせてもらったりしてすこし知っていた。ただ実際に同行するのは始めてで、このMirarraの意図的な木の選び方はとても興味深かった。ただこのMirarraの木の選び方が、クランごとのイダキの選び方にすべて当てはまるかといえばそうでもなく、知らないこと、わからないことはまだまだ多い。

小一時間ほどブッシュを歩きまわって十数本の木に目をつけ、実際に切られたのは3割ぐらい。しかし切り倒された木の切り口を見るたびに彼の首は横に振られていく。 「このままでは今日中にいい木は1本も見つからないのでは・・」という不安がよぎり始めたころ、ついにMirarraの表情がキラリと輝く1本が現れた!!切られた木はやはり細く、腕ぐらいの太さ。ほとんどの木は切ったあと内部に詰まったターマイツ・シット(白蟻の糞)を掃除しなければならないのだが、この木は切った瞬間からほぼそのまま演奏ができる状態だった。さっそくMirarraが試しに音を出してみる。すると・・・

「これ、ええっすやああああん!」

「きたきたああああああ!」

ノン君と僕の歓声がほぼ同時にブッシュに響いた。

それを聞いたMirarraも本日最高の笑顔!!

僕たちはついにLatju(めっちゃいい)イダキに出会うことができたのだ。そのイダキはそのままでも充分いい状態だったのが、Mirarraは更に長さを調整して自分の求めるものに近づけていった。その後数本カットしたのだが、そこまで良い木に出会うことはできず、可能性のありそうな1本を追加するだけに終わった。しばらくして森の奥から現れたTerrence、GORI君と合流し、どの木を残すかを吟味していく。残念なことにこの日Terrenceは良い木を見つけることができず、最終的に残ったのはMirarraがカットし目を輝かせたあの1本だけだった。そしてこのイダキは今回の旅で一番の真剣勝負だったジャンケンに勝利した僕が購入することになり、Matamataから戻った数日後、Galpaを訪れて引き取ったのがこちらの作品。

Mirarrawu Yidkai
Matamataの飛行場
イダキ中央に施されたYirrtjaのダイヤモンド模様。横に置かれているのが同じダイヤモンドの形をしているという「やじり」。
全体はスラリと細く、長さ146cm、マウスピース2.8cm、ボトム7.2cmでキーはドローンがE-F、トゥーツがG#。中間部分にはYirrtja独特のダイヤモンド模様が施され、見る人が見れば模様のパターンからGumatjのイダキであることが分かるらしい。実際ダーウィンの友人宅に住んでいたMirarraと同じBurarrwangaのヨォルングにこのイダキを見せたところ「俺たちのイダキだ」といってとても懐かしがっていた。写真の横に置いてあるのはヤリに取り付ける「やじり」で、イダキの模様と同じようにダイヤモンドの形になっているのだと説明してくれた。

 

ボトムには珍しいことに大きな穴が開いている。少なくとも僕はこのように穴の開いたイダキを今まで見たことがなかった。おもしろいのはこの穴を手でふさぐと、まるでDjaluが作ったイダキのような音がでること。そしてその穴の周りにはちょっと変わった絵が施されている。Mirarraいわく「この穴がホワイトカカトゥの巣」だからなのだそうだが、どこからどうみても子供の落書きのようにしか見えない。まあ、メモリアルな作品として消さないでおこうと思っている。

この一本を残して森の彼方の村Matamataを訪れ、Mirarra、Terrenceとのイダキ・カッティングに繰り出すという一大イベントは幕を閉じた。 この小さな村で感じた大規模なコミュニティとは違う空気。遠隔地であるがゆえに残されている、物質的には貧しくても豊かな気持ちや笑顔。人の温かさや本来あるべき自然の偉大さを肌で感じることのできるMatamataは「また戻って来たい」そう心から思える場所だった。そしていつまでも変わらず懐かしい村であってほしいと願うのは、外部から訪れた者のエゴなのだろうか・・。

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