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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -森の彼方にMatamata編 2-

【Matamataへの道】

僕はYolnguの人たちとの「約束」というものにすこし不安を抱えていた。前回のブルースの件(バックナンバーを参照)やそのほかにもさまざまな出来事があり、「彼らとの約束はあってないようなものだな」と思うようにしていた。期待しすぎるとガッカリすることが多々ある。ただ彼らに悪気があるわけではなく、たんに時間や生活の「感覚」が異なっているのだ。しかしMirarraは違っていた。翌日Galpaを訪れてみると、彼は笑顔で僕たちを迎えてくれたのだ!!

「Yo- Wawa!Nhamirri?(よー兄弟!調子はどない?)」

「Manymak!(めっちゃええよ!)」

こんな体験は始めてだったため、僕は必要以上に感動してしまった。

カッティングするMirarra
早速、数本カットしてみたものの、この土地では良い木が見つからなかった。
Mirarraと合流した僕たちは、休憩もそこそこに早速イダキ・カッティングへと向かうことにした。メンバーはMirarraと彼の奥さん、そして僕たち4人の計6人。 彼が最初に指定した土地はGarmaフェスティバルの会場の近くのブッシュ。 そこで20分〜30分ほどウロウロしてみたのだが、どうも良い木が見つからないらしくMirarraの表情もいまいち冴えない。

ここはダメだなという判断は以外に早かった。そして車に戻って次の目的地はどこにするのか聞いてみると・・・

「よしっMatamataへ行こう!」

「あ〜Matamataねえ・・・、んン?それってあの・・Matamata??!!!!!」

「Yo--- 、Ngarraku Wanga(そう、僕の故郷さ) Land of the White cockatoo!!(白オウムの土地だよ)」

と言って彼はいつものように爽やかに微笑んだ。

そんな彼に対して一度Matamataを訪れたことのあったGORIくんの反応は複雑だった。

「まままマジでっ??」という驚きが顔全体に含まれていたのだ。まだその土地を訪れたことがなかった僕たちにはこのGORIくんの驚きがなにを意味するのかそのときはまったくわからなかった・・。

Mirarraが「僕の故郷だ」といったMatamataアウトステーションは、Ski Beachが面しているカーペンタリア湾のほぼ対岸にある。直線距離だとそれほどの距離ではないのだが、陸路を走るとかなりの大回りをしなければならず想像以上に遠かった。しかもそのコミュニティへと続く道は、今までオーストラリアで走ったどんなダート・ロードよりも「冒険的」だったのだ!

ランドクルーザーが上下左右に激しく揺れるギャップ、助走をつけないと上りきれない長い上り坂や、手前で大きく窪んでから一速で一気に駆け上がらないとエンストしてしまう急坂、四輪駆動でもスタックしそうになるほど積もったブル・ダスト、細い道に倒れこむ木を迂回し、今やあたりまえのようになってしまった川渡りが数本・・・。しかも道幅は狭く、対向車が来たら・・・なんてことは考えたくもないっ! 川の深さをチェック
顔を突き出して川の深さを確認するのんくん。後に見える道も凸凹しているのがわかるだろうか。

このオフロード愛好者ならよだれが出るほど走りたいだろうこの道のりこそが、GORIくんが見せた驚きの真相だったのだ。確かにMatamataは「ちょっと行って来るわ〜」的な気軽な気持ちで訪れられるような場所ではなかったのだ。

そんな道をどれだけの時間走り続けたのだろうか・・・。メンバーの顔にも疲れが見え始めたころ、ブッシュを切り開いただだっ広い空き地が現れた。Mirarraに聞いてみるとその空き地は実は飛行場なのだそうだ。そしてその飛行場に寄り添うようにして建物が数件しかない小さな集落があった。それがMirarraの故郷であるMatamataアウトステーションだった。

Mirarraに連れられて広場のほうへ歩いていくと、数人の女性が地面に敷かれた布の上に座り、色鮮やかに染められたパンダナスの葉でディリーバッグを編んでいた。僕たちが挨拶をすると彼女たちはみんな優しい笑顔で僕たちを迎えてくれる。その横ではさっきまでキャッキャキャッキャと走りまわっていた子供達が、ちょっと恥かしそうにこちらをチラチラと見ていた。「こっちにおいで」と手招きするとワーっと笑い声を上げながら逃げていく。どこに行ってもすこしシャイな子供達はとてもかわいい。

この小さな村で暮らしているのはMirarraの家族であるBurarrwangaの人々(Gumatjクラン)や、Djaluの家族であるGurruwiwiの人たち(Galpuクラン)。家は数件しかなく、外でも生活しているのだろうか、広場に張られた簡易式のテントが数張、時折強く吹く海風に吹き飛ばされそうにユラユラと揺れていた。

Matamataの飛行場
この村にはなぜか懐かしいような切ないような空気が流れていた。
Matamataは僕たちが体験したように車でのアクセスがかなり困難で、コミュニティ・ストアなどの近代的な設備がまったくない。目の前の飛行場は生活物資などを運んだり、住んでいる人が他の場所へ行くために必要不可欠なのだろう。そのように町から断絶されたかのように孤立したMatamataに漂う雰囲気は、近代的な設備が揃い、大勢の人たちが暮らしている大規模なコミュニティとはかなり違ったものだった。

肌に直接感じられるほど、ゆったりとしたなんともいえない空気感。澱んだような感じがなく、透明度が高くどこまでも澄んでいるように感じる。余分な雑音がまったくないその場所では、聴覚が研ぎ澄まされるのか音のひとつひとつが立体的にはっきりと聞こえる。

風の音に気持ちを集中すると、ブッシュの木々がさざなみのように揺れていくのがわかるような気がした。そして目の前に広がるブッシュや自分達を包み込むように広がる青い空が、鮮明に体の中に染み込んでくるのを感じた。これは今までアーネム・ランドをまわってきて、一度も感じたことのない不思議な、そしてなぜか懐かしいような心地いい感覚。 そんな僕の横でノン君がボソリと呟いた言葉が印象的だった。

「ここ・・天国ですやん・・」

その言葉がスウーと体に染み込んでいくぐらい、この村はなにかが違っていた。

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