車内でしばらく動けなくなってしまっていた僕だったが、いつまでもジッとしているわけにはいかなかった。奇跡的に流血や骨折などの重傷者はいなかったものの、みんな全身を車体に激しく打ちつけている。外傷はなくても、もし頭を打っていたら・・。とにかく急いで救援を頼まなければ!
とはいうものの、ここは都市から遥かに離れたブッシュ。
どうやって救援を呼べばいいのか検討もつかない。たとえ呼べたとしても助けがくるのに何時間かかるのだろうか・・不安がよぎる。とにかく散乱した食料、水をできるだけ集め、せめてもの日陰を作るためにテントを張って車が通るのを待つしかなかった。
なんとかテントを張り終わったとき、Goriくんが「世界が緑色一色に見える・・」といって倒れこんでしまった。緑一色って・・明らかに普通の状態じゃない!!早くなんとかしないと・・。
そのとき、遠くのほうから近づいてくる砂煙が見えた。車だ!!僕たちは痛む体に鞭打ってヨロヨロと道のほうへ歩き、必死で手を振った。まるで無人島から通りかかった船に手を振るように・・。 |
まさかこんな場所で事故を起こすなんて・・。信じられない展開にみんな呆然としていた。 |
「君たち大丈夫??あっ!ロール・オーバーしたのねっ!これはひどい・・すぐに救援を呼ぶからここでじっとしてなさい!!」
最初に止まってくれたおばちゃんが、現場をみてすぐに1番近い町Roper Barへと引き返してくれることになった。幸か不幸か、町まではあと残り20kmぐらいだったのだ。このときは「町までもうあと少しだったのに・・」という思いより「町が近くてよかった!」という思いのほうが強かった。
救援を呼んでもらえるとわかりホッとした途端、急に全身が痛み出す。
そんな中、テントにグッタリと倒れこんでいたGoriくんがヨロヨロと起き上がりこうつぶやいた。
「イダキ・・集めないと・・」
僕たちもそれに賛同しフラフラとイダキを集めテントの中に移動していった。
散乱する荷物と事故車の前でYidakiを吹くユウジ。彼のこのポジティブさに張り詰めていた気持ちがすこし和らいだ。
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その作業の途中、比較的元気だったユウジが突然事故車の前でイダキを吹き始めた。オージー顔負けの短パン、素足にブーツ、しかも鼻血を出しながらである。
このおかしな光景に、疲れ切ったメンバーの顔にも笑顔が戻った・・。こんな状態でもイダキを持ち出す自分たちの根性にすこし元気がでた。
「写真っ!写真とっとかないと!」
Goriくんが散乱する荷物の中からカメラを探し出し、劇的瞬間を写真に収めようとシャッターを押したその瞬間、部品がポロッと落ちそれっきり動かなくなってしまった。
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「あちゃー、もうこのカメラもあかんわー」
「僕のカメラ、大丈夫そうですよ!」。
と、のりくんが持ってきたのが古典的なアナログカメラ。いざというときはアナログのほうが信頼できるねー。というわけでカメラに収まったのがこの一枚。いま見るとこのまま新聞の一面に使えそうなぐらい、かなり笑える写真に仕上がっている。
炎天下の中しばらく待っていると、警察と救急車(といっても見た目は普通のランドクルーザー)が現場に到着し、実況見分が始まる。僕たちも痛む体を押しながら質問に答えていった。
「なんども言うようだけど、君たちは本当にラッキーだよ。この状況で一人も死者がでていないんだからね。」
警官に促されて助手席を見てみると、車のフレームがグニャリと内側に折れ曲がり、シートのあった場所には人の入る隙間などなかった。しかし長谷君はこのときシートベルトをしていなかった。通常であれば違反なのだけれど、このときばかりはそれが幸いし、回転の衝撃で足元のわずかなスペースに滑り落ち助かったらしい。もし彼がシートベルトをしていたらこのフレームが彼を直撃していたかもしれない・・・想像するだけで背筋が凍りつく思いがした。
(注意・・オーストラリアでは運転席、助手席だけでなく後部座席にもシートベルトの着用が義務づけられています。シートベルトをしておらず車の外に体が投げ出され死亡する事故が非常に多いということでした。)
その後も実況見分は続いていたが、体中に擦り傷や打撲を負っていた僕たちは、ひとまずNgukurrコミュニティのすこし手前にあるRoper
Barという場所に搬送されることになった。
そして現場を離れる直前にGoriくんが両手を挙げてこう叫んだ・・
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「生きているんだ!」という喜びが体中から溢れ出した瞬間だった・・。
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「うおおおおーーー!!俺たちは生きてるぞーーーー!!」