【不思議な老人、そして悲劇は起こった・・】 不思議な川の名前が記憶の彼方へと消えそうになったころ、遥か遠くにボンヤリと人影のようなものが見えた。人影?まさかねー。なぜならここは街から200km以上も離れた荒野。道端に人が立っているような場所ではない。でもやっぱり人影のような・・。 すこしずつ近づいていくと、やっぱり人だった。そこにいたのは、白髪がバラリと垂れ、薄汚れた白いタンクトップからのぞく肌は日焼けしていて白人とは思えない、やせた初老の男性だった。近くにブルドーザーのような重機が止まっているところを見ると、道路工事の関係の人なのだろうか。それならこんな荒野に立っているのも納得できた。 僕たちは彼のことをそう判断して、車を止めることなく彼の前を一気に通り過ぎようとした。しかし、すれ違う瞬間に彼を見ると、こちらに向かって何か言っている! 「Goriくん!!あのおじいちゃん、僕らになんか言ってるみたいやったで!!」 「えっ!マジで!重機故障して帰られへんのかな?ほな戻ろうかー」 かなりスピードを出していたので、車が止まったのは100mほど通り過ぎてからだった。それから彼の元までバックで引き返し、彼に話しかけてみた。 「おじいちゃん、どないしたん?車、故障したん?」 僕らのこの質問を理解したのかしないのか、その老人はチンプンカンプンなことを言い出した。 「お前たち、この先にはなにもないぞ。本当になにもない。だから今日はここでキャンプしたほうがいい・・」 「はへ?こんなところで??」 彼の話を聞いた僕たちの頭には「???」がたくさん浮かんでいた。 なぜならこの場所こそ本当になーーーんにもない荒野。あともうすこしでコミュニティに辿り着くというのに、なんでこんなところでキャンプしなきゃいけないのか理由がわからなかった。 「おじいちゃん、僕ら許可も持ってるし、Ngukurrコミュニティに泊まれるから大丈夫やで。」 「いや、この先にはなにもない。ここで泊まるべきだ。」 と、なぜか繰り返し僕たちを説得しようとする彼を残して車は再び走り出した。不思議なおじいちゃんだったなあと思い振り返ると、ジッとこちらを見つめている彼の姿が遠ざかっていった。いま思うと彼は、この先に僕たちの身になにが待ち受けているのか、知っていたのかもしれない・・。 それからどれくらいの時間走っただろうか。ウヒョウヒョと楽しんでいた隣の二人もいつのまにか静かになり、それぞれ思い思いのことを考えているのだろうか、ゆったりと落ち着いた時間が流れていた。 僕は窓の外を流れていくブッシュを眺めているうちに、いつのまにかウトウトとし始めてしまった。起きているのか・・それとも眠っているのか・・。夢と現実の間をフワフワと行き来しているような、なんともいえない気持ちの良い時間が流れていく・・。それからどれぐらいの間、眠っていたのだろうか、10分なのか1時間なのか・・。今思い返してみてもまったく検討もつかない・・ 「ウアッ、アッ、あぶない!危なああああああああーーいいいい!!!!」 誰かの悲痛な叫び声で僕が目を開けたとき、すでに僕たちは地獄への門をくぐってしまっていた。フワッと一瞬左に揺れた(ように僕は感じた)あと、車はグウォーーーンときびすを返すように右側に大きく道を外れていく。そして時速100km近いであろうスピードをまったく落とすことなく、ガタガタと大きな音を立てながら、小さなアリ塚が点々と広がる荒野に向かって突っ込んでいった!まだ寝起きでボンヤリとした頭には、目の前に起こっている状況がまったく理解できなかった。 かろうじて目の端に映ったのは、コントロールを失い暴れ続けるハンドルに、必死にしがみつくGoriくんの姿。そして横にはなにかを叫んでいるのりくんとユウジの横顔が見えた。僕はなにが起こったのか彼らに尋ねようとするが、思うようにしゃべることができない!! そして次の瞬間、一瞬時間が止まったかのような静寂。そしていままで経験したことのない激しい衝撃とともに、目の前の景色がグチャグチャになっていった・・・。 |トップへ|
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