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ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -キャサリン回想 中編 1-

【Hells Gate Creek(地獄の門川)】

Ngukurrコミュニティへと続く道、ローパー・ハイウェイ(Roper HWY)は予想以上に厳しかった。なにが厳しいのかと言うと、この道が通称「コルゲーション・ロード」と呼ばれているダート・ロードだったのだ。 この聞きなれない単語「Corrugation」を英和辞書で引いてみると・・・

 Corrugation……波形にすること。(鉄板などの)波形、しわ、ひだ、うね。

つまり洗濯板のように波打った凸凹道のこと。バイクで旅をしていた時、友達から「もしコルゲーションを走るときはネジの緩みに気をつけろ!」と忠告を受けていた。つまり激しく揺れるのだ。

コルゲーション・ロード
これがコルゲーション・ロード。道が洗濯板のように波打っているのがわかるだろうか??
コルゲーション・ロードは日本では馴染みがないと思うので、状況をもう少し詳しく説明しよう。仮にこの凸凹道を60km/h以下で走るとする。そうすると、それはもう大変な「揺れ」である。荷物はガタガタ音を立ててあちらこちらに動き回るし、しゃべるのでさえ「アウワウワウ・・・」と揺れに合わせてアゴがガクガクして、まともに会話なんてできたもんじゃない。

一方で少しずつスピードを上げていくと揺れが治まっていき、80km/hを超えたあたりからアレッ?といった感じで途端に静かになるのだ。会話もスムーズ。

理由を説明すると、タイヤが凸凹の山の頂点だけを繋いでいくため、平坦な道を走るのと同じ状態になるらしいのだ。

ところがこの静けさには重大な落とし穴がある。静かになったことに気をよくしてスピードをさらに上げたりすると、不意にハンドルがとられ、スゥーーーっと滑る、滑る! 車の体勢を立て直した後、冷や汗がドッと噴きだす、なんて羽目になる。なぜこんなに滑るのかというと、タイヤが山の頂上だけを繋ぐため、ほとんどグリップしないのだ。これはまるで「氷道」。ゆっくり走ればまともに話もできないほどのガタガタ道、スピードを上げればツルツル滑る氷道。つまりコルゲーション・ロードは「どちらに転んでもいいことなし」のまるで究極の選択のような道なのだ。

この日運転していたGoriくんにとって、コルゲーションは初めての経験。 走り出してすぐは思った以上に滑る道路に恐る恐る運転していたが、時間が経つにつれ慣れてきたのか、コンスタントに90km/hから100km/hで軽快に走れるようになっていた。車の揺れが安定すると気持ちにも余裕が生まれる。窓の外を見れば、そこには一面に広がるブッシュと剥き出しの岩山で構成された壮大な風景。この景色に、最初は低かったメンバーのテンションもグングン上がり始めていた。

運転はずっとGoriくんが担当し、助手席に長谷君。そして僕とユウジ、のりくんは後部座席に座っていた。運転手リストからはずされたペーパードライバーのりくんと無免許のユウジは、精神的に解放されたのか、まるで高校生の修学旅行のような盛り上がり。途中からペットボトルの水を窓の外に飛ばして、風で戻ってきた水を顔中に浴びるという遊びが2人の間で流行りはじめた。

「ウッヒョー、めっちゃ冷たいわー、最高うう!ユウジもやってみい!」

「ウッヒャー、ほんまやー!めっちゃ冷たいやーん!もう一回やらしてー」

「・・・。あのねえ・・、自分ら年考えやー!!」

この旅に参加するため、ケアンズからバイクで3,000kmを駆け抜け、疲れきっていた僕は、この2人のテンションにまったくついていけなかった。バックミラーに写ったGoriくんも呆れ顔。

顔中水まみれのUG & ノリ

顔中ビショ濡れになってはしゃぐ2人・・。無邪気な笑顔が眩しい・・って、年考えろ!

「Goriくーん、運転疲れたら交代するから言ってなー」

「サンキュー。でもまだ大丈夫やでー。この道にも慣れてきたし。休んどいてー」

相手を気遣いながら交わすなにげない会話・・なんて大人な30代の二人!! Goriくんもまだ大丈夫だというので、キャピキャピ騒いでいる隣の2人を無視して、僕は窓の外をボンヤリと眺めていた。そして小さな川に架かる橋を通り過ぎたとき、なぜか看板の文字がパッと目に入った。

「Hells Gate Creek(地獄の門川)・・??」

僕の見間違いかと思ったが、前に座っている2人も「えらい変な名前の川やったなー・・」と言っている。見間違えじゃないのか・・?不思議な川の名前がなんとなく心に引っかかった・・。

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