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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -Gamraのディープな楽しみ方 後編 3-

【ドキュメンタリー映画「5 Seasons」の衝撃】

「オーストラリア先住民アボリジナルの人たちのところに行ってきたんだ」と誰かに話したとき、必ずといっていいほど聞き返される質問がある。

「へ〜、じゃあ幼虫とか食べたん?」

「どんな生活してるの?服とか着てるの?」

だいたいこんな感じの内容がほとんど。このような質問は外国人から「日本には着物を着た芸者がいて、侍がチョンマゲで闊歩しているんだろ?」と言われているようなものなのだが、大多数の日本人のアボリジナルの人たちに対するイメージはこんなところだと思う。そしてその質問の回答として「彼らのコミュニティにはスーパーマーケットがあり、学校があり、病院もある。僕たちとほとんど変わらない生活をしているよ。」という話をするとみんな一様に驚いた表情を見せる。

これはメディアなど発信する側のエゴや偏った視点が「公然とした間違った情報」を生み出し、さらに受け手側が「知らない」ことと、「与えられた情報を鵜呑みにする」ことが拍車をかけ、このような状態を生んでいると思う。なにを隠そう僕自身も実際に彼らのもとを訪れるまでアボリジナルの人々に対してステレオタイプなイメージしか持っていなかった。しかし知れば知るほど、触れれば触れるほど、いかに自分が知らなかったかということを痛感していった。

日本ではいま、ディジュリドゥやアートなどを中心に、彼らの文化や芸術がかなり注目されている。しかし、僕たちと同じ時間を生きる人々としての彼らの「いま」に関してはどうか、というと皆無といっていいほど情報がないのが現状だ。その状態をいかに打破するか、ということが僕がブラブラ日記を書き始めたキッカケのひとつでもある。 しかし発信する側にとって重要なのは、異文化に触れる場合にどれだけニュートラルな視点を持てるか、ということだ。もしそれを公共の場に公開するとなればその責任は計り知れない。そんななか、2005年のGarmaで1本の素晴らしいドキュメンタリー映画に出会った。

その映画のタイトルは「5 Seasons」。

Garmaフェスティバルでは、夜のプログラムとしてアボリジナル関連の映画を上映する日があるのだが、食事の帰りになにげなく立ち寄った映画会場で、僕達は最後まで完全に釘付けになってしまったのだ。 この映画について簡単に説明すると、この映画はブラブラ日記でもたびたび紹介しているRed Flag Dacncersの出身コミュニティであるNumbulwarを舞台にしたドキュメンタリー映画。コミュニティで暮らす1人の長老の視点から、彼らが認識しているという「5つの季節」を通してリアルな日常生活を追い、コミュニティの「現在」、伝統や文化の「現在」、そしてアボリジナルの人達の「現在」を浮き彫りにしていく。そこには複雑な過去を引きずった「現在」や、輝きや希望を感じさせる「現在」、そしてNumbulwarという地域について気候の変化や土地の特徴、動物や植物のリズムに寄り添うような人々の生活、そしてディジュリドゥやダンスを含めた伝統文化などのさまざまな情報が巧みに織り込まれている。

しかしこの映画の突出したスゴさは、Numbulwarに住むアボリジナルの人々の「いま」を冷静且つ客観的な視点で淡々と撮りきっているという点にあると思う。異文化を伝えるということの責任を忘れ、エゴに流され誇張や脚色を加えてしまう人が多い中で、この監督のように常にニュートラルで真摯な視点を貫き通している人は少ないと思う。通常このようなスタイルを徹底していくとキャッチーな表現やゴシップ的な要素が少なくなり、変に学術的になったり、資料的なものになってしまいそうなのだが、「5 Seasons」は見るものにさまざまな角度から感動や新鮮な驚きを与え、最後まで緊張感を維持させる点も監督の才能を感じさせる。そして映画の最後で僕たちを心底驚かせたのは彼らのドライビングテクニック!!ランドクルーザーのお尻が左右に大きく振られながらも猛スピードでダートロードを走り、水たまりというよりはまるで池のように見える深さの所を豪快な水しぶきをあげながら突破していく。このシーンが、脚色のないリアルな日常であるということに正直感動すら覚えてしまった。

僕は日本のより多くの人たちにこの映画を見て欲しい。 そしてアボリジナルの人たちの「現在」に触れ、驚き、知り、感じることで、彼らとの新しい関係が築かれていくのではないかと期待している。

この「5 Seasons」も含めてアボリジナル関連の映画で素晴らしいものが何本かあるのだが、日本で公開される予定はいまのところないと思う。Earth Tubeでは今後アボリジナルの人々に関する映画や映像などを取り扱う予定になっているので、これからの展開に期待したい。

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