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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -ミンディルビーチ・マーケット編 6-

【俺のために吹け!事件】

僕はすでにミンディルビーチで二人のソングマンに出会っていた。一人はマーケットの裏の顔、ブロンソン。そしてもう一人はブロルガのソングマン、マーク。二人ともYirrkalaの南、カーペンタリア湾に浮かぶ島、Groote Eylandt出身のソングマンだ。

僕は最初ブロンソンとともに吹いていたのだが、バスキングを重ねるうちに見えてきたそのがめつさに少々あきれていた。そんな時出会ったのがマークであり、僕は彼の歌声がとにかく好きだった。彼は僕をパートナーとして認めてくれ、稼いだお金もいつもシェアしようと言ってくれた。

別にお金がほしかったわけではないけれど、その気持ちがとてもうれしかった。必然的に僕はいつもマークと一緒に吹くようになっていた。そして僕らの間にはいい信頼関係が育っていた。そんなある日その事件は起こった・・・。

いつものように僕はマークと一緒にバスキングをしていた。すると遠くから見覚えのあるアボリジナルの女性が手招きをしている。気になった僕はその女性のところへいってみることにした。すると彼女はちょっと怒ったような口調でこういった

「あんた!最近マークのとこでばっかり吹いてるじゃないか!あんたはブロンソンにお世話になってるだろ?  だったら彼のとこでも吹きなよ!」

僕はその女性がブロンソンの嫁さんだったことを思い出した。彼女は僕を半ば無理やりブロンソンのところに連れていこうとした。僕は最初すこし抵抗したのだが、考えてみると確かに彼女の言うことにも一理ある。なぜなら、いくらがめついとはいえブロンソンにもずいぶんお世話になっていたからだ。僕はブロンソンのところへ行くことにした

振り返るとマークが寂しそうにこっちを見ているのが見えてすこし心苦しかったが、僕は「ブロンソンのところですこし吹いて、すぐ戻るよ」と言い残してその場をあとにした・・。

「お前は俺のところで吹け!」

ノリくん&ブロンソン

のりくんも彼に稼ぎのシェアを求めたが失敗した

ブロンソンは会うとすぐに不機嫌そうな表情で吐きすてるようにこう言った。今日の彼の機嫌はすこぶる悪かった。なぜかというと、今日は彼の横でディジュリドゥを吹く人間がいなかったのである。ディジュリドゥがあるのとないのとでは、その日の稼ぎに大きな差がでる。今日は彼の「金の絨毯」にも輝きが足りなかった。

「OK。じゃあ、ある程度稼げるまでここで吹くよ。そしたらマークのとこに戻るからね」と僕が言うと、

「いや、お前は俺のところで吹くんだ!」とブロンソンは命令口調で言った。

僕はその言葉の響きにムッときてしまった。彼のその言葉には「俺の稼ぎのため」という響きがあった。マークとの間にそのようなことは一切なかった。

「じゃあ稼いだお金はシェアしてくれるんやな?」

別にお金がほしいわけではなかったけれど、彼のがめつさに腹が立っていた僕は とっさにそう言っていた。すると彼の答えはこうだった。

「なんでお前に金をわけなきゃいけないんだ! 稼ぎは全部俺のものだ!」

もう我慢できなかった!そこからは二人とも喧嘩腰。さんざん言い争いをしたが、いつまでたっても平行線だった。僕は最終的に「あんたとはもうバスキングしたくない」とだけいうと彼が叫んでいるのもかまわずマークのところに戻っていった・・・。

その日は、それから最悪だった。彼は僕を見つける度にツバを吐き悪態をつく。一度はTシャツをつかまれ、メガネをはじかれた。彼は僕を睨みつけながらこう言った。

「ファッキン!ジャパニーズ!!うせやがれ!」

そんな状態がその日は続き、僕はもう、うんざりしていた。 そして彼の最後の一言はこうだった・・・

「次は絶対に俺のところで吹け! わかったか!ファッキン・ジャパニーズ!!」

おいおい!さっきはうせやがれって言わなかったっけ?消えてほしいのか吹いてほしいのかいったいどっちやねん!

しかし、まさかアボリジナルの人たちと人間関係でもめるとは。ミンディルマーケットに最初に来たときには思いもしなかった。この日を境に、僕はブロンソンと長い絶縁状態に入ることになったのだった。そしてこの事件をきっかけに僕は彼らの激しい気性のようなものを知ることになった。と同時に時間とともにそんなことはすっかり忘れてしまうということも・・。

つぎにブロンソンに会ったとき、ニヤニヤしながら彼が最初に言った言葉は・・

「Do you remember me? 俺のこと覚えてるか?」

あれだけ言われて忘れられるかっちゅーねん!

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