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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -アーネム・ハイウェイ - Yirrkalaへの750km 後編 1-

【暗闇に浮かぶ目】

まさかアーネム・ランドで道に迷うとは思っていなかった僕達だったが、孔雀が徘徊する寂しい村Mainoru Home Stead を後にし、本来の目的地であるMainoru Shopへ向かって道を急いでいた。

おばちゃんに教えてもらったとおり、分かれ道の看板まで戻り、正しい道に入る。村を後にした時すでに沈みかけていた太陽は、アッという間に地平線に消えていき、30分も走ったころにはあたりは真っ暗闇になってしまった。

暗闇のアーネム
ブッシュさえ消し去る暗闇のなか、頼りになるのは車のヘッドライトだけ・・。
夜のアーネム・ランドを車のヘッドライトだけを頼りに走るというのは、路面の状態がほとんどつかめずかなり大変。

しかも正しい道に戻った途端、慣れない夜道をノロノロ走る僕らの車を追い越していく車があらわれたのだが、これがかなりキツイ!

追い越された瞬間、前の車が巻き上げる砂煙で視界が真っ白になってしまい、まるで濃い霧の中を走っているような状態。

このとき運転していた僕は、まるでスリガラスのように視界をさえぎる濃い砂煙のなか、道の凸凹にはまって不意に左右に振られるハンドルを必死に押さえ、いつどこから飛び出してくるかもわからない牛やカンガルーに怯えながら走るという過酷な状態に陥っていた。早く目的地に着きたいと気持ちは焦るし、体はガタガタ、神経ボロボロ・・。

「Mainoru Shopまではここから15kmほどじゃないかしら?」

というおばちゃんの言葉が頭のなかで何度もリフレインしていく。 しかし車の距離メーターで15kmを超えても一向にそれらしい場所は現れなかった。 最初は「オージーの距離感は大雑把すぎるねん!」などとブツブツ言いながらもその言葉を信じ走り続けたのだが、行けども行けども目的地にたどりつかないとだんだん不安になってくる・・。まさかまた道を間違えたのか?いやそんなはずはない、と自問自答を繰り返す。そして運命共同体であるはずのメンバーはというと・・・

「ちょっと遠すぎへん?」

「道が他にもあったりしてなあ」

「ほんまにおばちゃん、この道っていってた?」

不安になる僕を気遣うどころか、容赦のないプレッシャーと心無い言葉の数々・・。

「絶対あってるって!間違いないって!」と彼らを一喝しながら、人の信頼関係のはかなさを実感する僕だった。

「あっ!あそこ!明かりが見えるで!」

モヤモヤとした不安が最高潮に達しようとしたころ、遠くのほうにキャンプ・ファイアのような明かりが見えたのだ!合っててよかったぁぁ・・!と心の中で叫びながら「なっ!この道であってたやろ?」と強がる自分に切なさを感じた。

とにかく初めてのアーネム・ハイウェイの走行で疲れきっていた僕たちは、一刻も早くテントを張って寝てしまいたかった。しかしアーネム・ランドはそう簡単に僕達を休ませてくれなかったのだ。

「アカン!アカン!この先、川でっせ、川!」

暗闇のなか、歩いて道の状態を確認しにいったノン君がそういいながら帰ってきた。 Mainoru Shopまではなんとか辿り着いたものの、ゲートがしまっていてどうやってキャンプ場に乗り入れるのかがわからなかったのだ。キャンプ・ファイヤの明りらしきものが少し先に見える。とりあえずメインの道を先に進んでみたものの、暗闇の中に不気味に流れる川が行く手を阻んでいた。まさかこの川の向こう岸にキャンプ場があるというのだろうか・・。

アーネム・ランドで夜に川を渡るというのは相当な恐怖だ。 なぜならそこにはソルトウォーター・クロコダイル(通称ソルティ)が潜んでいる可能性があるからだ。海、川の両方に生息する彼らは、成長すると体長6〜7mにも達するといわれ、時には人間も襲うこともあるという獰猛な種類だ。事実、川でバイクを洗っていた旅行者が襲われたり、沼で泳いでいた観光客が殺されたりするという事件が起こっている。

とにかく、この「野生動物に対する恐怖」は日本ではまず体験できないと思う。しかし、ここアーネム・ランドでは日常的に感じられる恐怖なのだ。三途の川を渡りたくなかった僕たちは、Mainoru Shopの門の前に車を止めて、歩いて明りの所まで行ってみることにした。

ゲートを無造作にしばっているチェーンをはずして、ガソリン・スタンドのような建物のほうに向かって歩き出す僕とGORIくん。もちろんあたりに明りというものは一切なく、車のライトが届く範囲を超えると漆黒の闇。そして自分たちのヘッド・ライトを点灯した・・。その瞬間!目の前に浮かぶギラギラと光る無数の目、目、目っ!!

「ド、ドおわわあぁぁぁーーー!!」

とマンガのように驚く僕たち。するとその声に驚いたのか、その無数の光る目の集団が一斉にドドドドドドッーーーと地響きを立てて動き出したのだ!なにが起こったのかわからずアヒアヒする僕とGORIくん。その目たちはすこし離れた場所に移動したあと、またジイーーーッとこちらを見つめている。一瞬うろたえた僕たちだったが冷静に観察してみると、いるわ、いるわ、辺り一面、ウシ、ウシ、ウシ、ウシ、ウシだらけ!その数ざっと20頭!夜にこれだけの牛に囲まれたのは人生で初めての経験だったが、これほど恐ろしいものだとは思わなかった。さすがアーネム・ランド、それ自体が動物王国、まるで巨大なサファリ・パークだ。

ウシ集団の恐怖にも怯えながら、なんとか明りまでたどり付きキャンプ場までの入り方を教えてもらうことができた。はあああ、なんて長い一日だったんだろう・・これでやっと眠れる・・。テントを準備したあと、疲れた体にムチ打って作った煮込みラーメンのおいしさは忘れることができない。

僕はそのあとテントに倒れこむかのようにグッタリと眠りについた・・。

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