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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -アーネム・ハイウェイ - Yirrkalaへの750km 前編 3-

【残された村】

陽が傾くにつれて焦る気持ちを察するかのように、今日のキャンプ地である「Maninoru」を示す看板が急に現れた。僕たちはなんの疑問も抱かないままその指示にしたがった。

「おっとっと、危ない危ない」

ダート・ロードにまで出てきた牛たち
僕達の車を見つめる牛たち。日本の牛と違いとても痩せている。
運転していたノンくんが、なにかに気づいたらしくスピードを落としていく。なんだろうと窓から覗いてみると、道の真ん中に大きな牛たちがのんびりと休んでいた。周りを見るといつのまにかたくさんの牛たちに囲まれているじゃないか。

放牧なのか野生なのか、別に柵らしきものは見当たらず、彼らはグリッとした丸い大きな瞳で初めてみる訪問者を観察しているようだった。

ブッシュの中を通るダート・ロードでは柵がないことが多く、カンガルーや牛との衝突事故の危険性が特に高い。それに備えて多くの車が「ルー・バー(カンガルー・バー)」と呼ばれる鉄製のガードを装着しているのだが、万が一彼らを轢いてしまえば、たとえルー・バーのある車でもダメージは相当なものだろう。陽が暮れかかった時間帯は光の加減でとくに視界が悪く、まぶしく照り返す白い砂の道に白い牛が歩いているものだから、保護色のようになって本当にわかりにくいのだ。ここでもノンくんが活躍した。

彼らとの衝突を避けるためすこしスピードを落としながら走っていると、またもやノンくんが「あれっ?おかしいな・・」とつぶやきはじめた。ちょっとちょっと、一難去ってまた一難??心臓に悪いからやめてほしいねんけどなぁ。聞けばブレーキの効きが悪くなっているという・・ってそれは笑い事ちゃうやん!とにかくすぐに車を止めて確認だ!

車を牛達のいる道のわきに止めてボンネットを開けてみると、ブレーキ・オイルの投入口の蓋がパカパカと緩んでいるじゃないか!

応急処置としてGORIくんがイダキ補修用にもってきていたビニールテープで蓋を固定すると効きがすこしマシになった。

僕達の「持っててよかった装備リスト」にビニールテープ(ガムテープならなお良い)が加わった。とにかく時間がない!修理?を済ませた僕達は再び車に飛び乗り先を急いだ。

道ばたにとめて車をチェック
なにもないブッシュでのトラブルはなんともいえず心細い。

それにしてもいつになったらキャンプ地にたどり着くのだろうか・・フェスティバルに向かって走るほかの車がいてもいいような気がするがその気配はまったくなかった。 焦る気持ちとは関係なく陽はどんどんと地平線に近づいていく・・と、その時、遠くにポツポツとコンテナのならんだ村のようなものが見えてきた。あれがMainoruか!よかったなんとか明るいうちにたどり着くことができた!僕達はワイワイいいながら村のなかへと車を進めていった。

「すいませ〜ん、誰かいませんかぁ?ハロー・・」

ガラ〜ンとした倉庫のような建物に僕の声がむなしく響く。やっと辿り着いたその村は、あきらかに雰囲気がおかしかった。広場のような場所のスプリンクラーに水やりされた芝は青々としているものの、ポツポツとある家に人の気配はまったない。倉庫には農機具やトラクターのような機械が埃をかぶり放置されている。しかもなぜか「孔雀」がいたるところに歩いていた。その数、数十羽。なんでこんなところに大量の孔雀がいるのか・・あまりのミスマッチさに面食らった。Mainoruはフェスティバルに向かう人たちのキャンプ地に指定されてるのだから、まったく他のキャンパーがいないのもおかしい。この村はまさにゴースト・タウン・・そんな雰囲気だった。

「なぁ、誰もおらへんで〜・・・孔雀はいっぱいいるけど・・」

「マジでっ?なんでやろう・・道、間違えたんやろか・・分かれ道とかあった??」

そう、僕達はなんとアーネム・ランドで道に迷ってしまったのだ!!アーネム・ハイウェイは1本道だと思っていたのに、どこかに分かれ道があった可能性が高くなってきた。日はもう沈みかけている・・ここに泊まるべきか、引き返して正しい道を見つけるべきだろうか・・選択を迫られていた。しかし僕の脳裏には暗闇のブッシュを彷徨うランドクルーザーの姿が浮かんでいた・・。

「とにかく村人がいないかどうか全部の家回ってみよう!」

そう決めた僕達は、一軒一軒のドアをノックし「誰かいませんかー!」と声を掛けてまわった。しかしどこにも人の気配はなく、空しさだけがつのっていく。やっぱりここはゴーストタウンなのか・・そして村の一番奥の家に近づいたとき、なんとなく人の気配がしたような気がした。さっそくドアをノックして大声で呼びかけてみた・・すると

「はぁ〜い、ちょっと待ってね〜。いま出て行くから。お客さんが来るなんて思ってないから服を着替えなくっちゃ。」

なんと、本当に人がいたのだ!バタバタと家を走り回る音が外まで聞こえてくる。しばらくして玄関からドタバタと出てきたのはゴーストタウンの雰囲気とはまったく逆の、気が抜けるぐらい陽気なおばちゃんだった。

「あっら?、あなたどっから来たの??」

そのおばちゃんに僕達の経緯を説明するとおばちゃんは「なるほどねー」といった感じでうなずいてとても親切に説明をしてくれた。それによるとこの村はMainoru Home Steadと呼ばれる場所で僕達が目指していたMainoru Shopとは違うのだそうだ。そしてどこで道を間違えたかというと例の看板が立っていた場所だった。そこを左に曲がればMainoruにたどり着けるらしい。

「この時間からだと店は閉まっているけど、入り口に鍵はかかっていないから勝手に開けて泊まればいいわ。私の息子がそこで働いているから言っといてあげるわ。」

ブッシュの夕日
陽が沈んだ後のブッシュの風景はなぜか切ない・・。
僕は親切なそのおばちゃんに何度もお礼を言って車へと戻った。そして急いでその村を出発しMainoruへの道を急いだ。その途中、四輪バギーにまたがった青年とすれ違い、軽く手を挙げて挨拶を交わす。あれがShopで働いている息子だろう。

広大なブッシュのなかにポツンと残されたような寂しい村で暮らすおばちゃんと息子達。たくさんいた孔雀たちは寂しさを紛らわす手段なのだろうか、などと勝手に詮索してしまった。

たくさんの人たちに囲まれて暮らす僕達には計り知れない日常生活を彼らは送っている。それをツライと思うかどうかは本人にしかわからない。だけど僕には無理だな・・なんとなくそう感じた。

太陽が地平線に沈んだ後の、アフリカの影絵のように美しいブッシュを走りながら、陽気なおばちゃんの顔を思い出してなぜか切ない気持ちが僕の心に残っていた・・。

後編へと続く
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