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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【ヌンティの一言】

教会でのお葬式は16時から始まるということだったので、「レジ締め早く終わらせんと!」と気持ちがすごくあせっている僕を見てミックが、

「まあ、時間どおりには始まらないだろう」

「そうかもしれへんけど、せっかくやから初めから参加したいねん」

「じゃあ、レジ締めはオレがやっておくから早く着替えてこいよ」

ミックは僕がストアーで働く前は、亡くなられた男性と一緒に働いていたので、もちろんお葬式に参加をするつもりだったみたいだが、快く僕を帰らせてくれた。服を着替えて教会に着くと、室内は正装をした人たちであふれかえっていた。長イスにはギュウギュウ詰めで座り、地べたに座っている人たちもいる。中に入りきれない人たちは、教会の周りで地べたに座っている。

式はまだ始まっておらず、どこに座ろうかと室内を見回していると教会の入り口から祭壇へと続く道を中心にして、男性と女性が完全に分かれて座っているのだ。僕も男性側に座ろうと空いている場所を探していると、グラニスを含め白人オージーたちが固まって座っている場所を見つけた。なんとなくその場所の方がいいかな?と思い、地べたに座っている人たちをかきわけてフェイの隣の席を確保した。

席に着いてからもしばらく式が始まる様子はなく、みんなの話し声や赤ちゃんの泣き声、子供のはしゃぎ声が室内に所せましと飛び交い、雑然とした雰囲気に包まれていた。やがて祭壇脇にあるカーテンからアボリジナルの牧師が教壇の前に立ち、おもむろにLuritja語で話し始めた。何を言っているのかさっぱり分からなかったが、みんなの話し声がピタッと止んだのでセレモニーが始まったのだろう。

砂漠のコミュニティWatiyawanuの教会
トタン張りの教会には冷房器具が設置されていないので、人の熱気と、太陽の熱が室内の温度をガンガンに上げていく。いや、本当に暑かったッス。

初めのうちは一生懸命になって牧師の話や女性たちが歌う賛美歌に耳を傾けていたが、次第にしんどくなってきた。Luritja語が使われていたこともあったが、室内の温度が人の熱気でかなり上昇しているのだ。頭がボーッとしかけた頃、ふいに女性たちの金切り声が僕の耳を貫いたのでハッ我に返った。

祭壇に目を向けると、10人ほどのアボリジナル男性が安置されている棺の周りに集まり、深く頭を下げていた。女性たちの叫び声が徐々に音量を増していく中、男性たちが棺を一斉に持ち上げ、それぞれの肩に乗せて出口に向かって歩いてきた。

前列に座っていた人たちから順に棺を担ぐ男性たちの後ろについて歩き、棺がランド・クルーザー(霊柩車)の荷台に置かれると、手に持った造花を棺の上に置き、そっと棺に手を触れ後に続く人たちに押されるように車から離れていった。なかには棺に抱きつき、その場を離れようとしないアボリジナル女性の姿もあった。

ソーリー・ビジネスが始まってから、みんなはあまり感情をむき出しにしている姿を見かけなかった。しかし、堰を切ったように泣き叫んでいる光景は、「これが最後の別れなんやなぁ」ということをしみじみと感じさせられる。

棺を埋葬する墓地は、コミュニティから東へ50mほど離れた発電施設のさらに奥にあり、車でわずか3分ほどの場所にある。墓地に着くとショベルカーに乗ったジェイミーが僕たちを迎え入れてくれた。彼はセレモニーには参加せずに棺を埋葬する穴を掘り、その周辺を整地してくれていたようだ。僕たちと同じく黒のパンツと白いシャツで身を包み、彼のトレードマークであるモヒカンは整髪剤でキッチリと固められている。ジェイミー流の正装なんだろうか? 

鐘とコミュニティ
車が墓地に向かって出発するときに、高らかに鐘が鳴り響いていた。

集まった人たちは深く掘られた穴を中心に大きな輪を作って座っている。ここでは教会のときのように男女が別々ではなく、家族単位で集まっているみたいだ。僕はその輪の一番外側に腰を下ろし、牧師が話しているのを眺めていた。やがて牧師の話が終わるのと同時に、5人ほどのアボリジナル男性がスコップを片手に、穴の周囲に集まりだした。そして終始無言のまま棺の納められた穴に土を落としていく。

作業をしている人たちの周りには砂埃が舞い上がり、彼らの輪郭が薄ぼんやりとしか見えない。その姿を夕日が照らし、日常風景とはかけ離れた別世界にいるような光景がそこにあった。スコップが次から次へと男性たちの手を渡っていくが、3mほどの深さがある穴はなかなか埋まっていかず、男性たちの顔にも疲れの表情がでている。ふいに、以前カンガルーの血をごちそうしてくれたセドリックが、

「カズ、お前も土をかぶせてあげてくれ」

「えっ!?いいの?」

無言で力強くスコップを手渡すセドリックの瞳には、「一緒に死者への弔いをしてくれ」という気持ちがこもっているように見えた。

穴の半分ほど土が埋まったところで、牧師が「これぐらいでいいだろう」とジェイミーに合図を出すと、ショベルカーで一気に穴をふさいでいった。ジェイミーが地面を慣らしていると、背後から僕の肩に誰かが手を乗せてきた。振り返ると、ジェリーが笑顔で立っていて、

「よくやってくれたなカズ。これからソーリー・キャンプに戻って、みんなで夜ごはんを食べるんだ。お前も来いよ」

「えっ!?でも・・・」

本当にそんな場所へ行っていいだろうか?僕の個人的な考えだが、こういったセレモニーの後には、血縁関係の濃い親族や、特に親しかった知人だけが参加するものじゃないのか?と一瞬考え、僕だけの判断だと心もとなく思い、

「ちょっと待って。他の人にも聞いて見るわ」

とその場にジェリーを残し、ソーリー・ビジネスに実際に参加していたヌンティおばあちゃんに聞いてみた。すると、

「今日は家に帰りなさい」

意外なヌンティの返答だったが、不思議と疎外感を感じることはなかった。それは、約2週間におよぶソーリー・ビジネスを通じて、アボリジナルのジェリーやセドリック、そして白人オージーのグラニスやフェイが暖かく見守っていてくれていることに気付くことができたからに違いない。アボリジナル、白人オージー、そして日本人である僕と、それぞれの間には確かにボーダー・ラインというのが厳然として存在している。だからといって、お互いの主義、主張を無視するのではなく、お互いに歩み寄る行動が大切なんだと思わずにはいられない2週間だった。でも・・・、本当に疲れたっ!!

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