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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -家族との再会編 2-

【The Yolngu Way!!】

Ski Beachへ向う道に入るとすぐに、バスケット・コートで子供たちが遊んでいるのが見えた。彼らはこっちに気付いたのか、遊ぶ手を止めて「誰だろう?」とこちらをジッと見つめている。キョトンとしている彼らに手を振ると小さく振り返してくれた。

写真をとるヨォルング・キッズ
アボリジナルの子供達はカメラが大好き。必ず「貸して!」といわれる。 デジカメならいいのだが、フィルムの場合は一気に使い切るので注意しよう。
アボリジナルの子供たちは初めて出会う人たちに対してとても「シャイ」だ。最初のころはいつもはずかしそうでまったくしゃべってくれないことも多い。しかし慣れてくると最初のころが嘘のように、走る!わめく!騒ぐ!暴れる!もう付き合うほうがヘトヘトになるぐらい振り回されること間違いなしだ。

すこしぐらいシャイなままでいてくれたほうが平和でいいと思うときもある。でも青っ鼻を垂らしながら全身全霊で遊びまわる彼らを見ているとその純粋さにジーンとくるものがある。

彼らに手を振りながらなだらかな坂道を下っていき、ほぼ正面にある家のほうに車を乗り入れていった。家のそばに近づくと、大きな木の木陰にのんびりと座っていた数人のアボリジナルの女性たちがこちらに気付きなにか言っている。しばらくすると大勢の家族や子供達がワイワイと庭にでてきてビックリしたような顔でこちらを指差しているのが見えた。

子供たちはこっちに向かって大きく手を振りながら必死になにか叫んでいる。窓を開けてみると聞こえてきたのは・・・

「Yooo-,GOOOORIiii! GOOORIiii!!」

「Badikaaan!! Badikaaaan!!!」

GORIはGORI君のこと、Badikanは僕が前回彼らから頂いた名前だった。車を止めると子供達がワイワイいいながらいっせいに車のほうに駆け寄って来てくれた。そして大人たちもみんな満面の笑みで「よく来たね!」と僕達を温かく迎えてくれた。 隣近所からも噂を聞きつけたのか大勢の家族が集まって来てくれた。この歓迎にはいままでの疲れが吹っ飛ぶぐらい感激した。

そして女性や子供に囲まれるようにしてドッシリとした体格の長老が座っている。

ひときわ目を引く涼しげなアロハにキラリと輝くサングラスといえば・・いわずと知れたDjaluその人!僕が彼の手を握り「Nhamirri Ngathi?(※おじいさん、元気でしたか?)」と挨拶をするとニヤッと笑い「Yo- Manymak!(元気だよ!)」と答えてくれた。この瞬間、心のなかで描き続けてきたイメージと現実は完全に一致したのだった( ※YolnguのGurrutu(Kinship)と呼ばれる親族システムの中でDjaluは僕にとって「おじいさん(Ngathi)」にあたる)。

Djaluは日本公演のあと再び足を悪くして歩けない状態と聞いていてすこし心配していたのだが、思ったより元気そうで安心した。挨拶が終わるとすぐに女性たちがあたりをすこしきれいにしてくれ、木陰に布を敷いて「さあ、ここに座りなさい」と声をかけてくれた。 そして僕達はここから家族の一員としてYolnguのルールに従って行動することになる。

ここで簡単に彼らの家族システムについて少し説明しておきたい。

まず始めに説明しておきたいのが「※Dhuwa」「※Yirritja」という考え方。

※. これは北東アーネム・ランド、Yolngu言語圏での呼び方。中央アーネムや西アーネムなど地域や言語によって呼び名は違う。しかし似たような分類はあるようだ)。

アボリジナルの人々は世界のさまざなモノ、コト、動物、植物、雲や自然現象にいたるまでこの2つに分けて捉えていることが知られている。同じ動物や植物でもその成長過程でどちらに属するかが決まっていたり、土地でもここからここまでは「Dhuwa」の土地、ここからは「Yirritja」の土地と分けられていたり、時間なども明け方はどちら、夕暮れはどちらのように分けられているようだ(ここに上げたのはあくまでも例)。そして人々も「Dhuwa」か「Yirritja」のどちらかに属していて、Dhuwaの人はおなじDhuwaの人とは結婚できない、Yirrtjaの動物を同じYirrtjaの人は食べてはいけない、などのさまざまなルール(※)が定められている(※. 僕が訪れたときに聞いたところによると、このようなルールも現代ではすこしずつ変化してきているようだ)。

そしてノン・アボリジナルであるビジターが彼らのもとを訪れ、滞在しながら彼らと人間関係を築いた場合、彼らは「養子縁組(Adoptation)」という方法でそのビジターに名前を与え、彼らの「親族システム(Gurrute)」のなかに組み込む。そこからより深い人間関係がスタートしていくのだ。つまり名前をもらう事はそれほど特別な事ではなく、彼らとの「関係がスタートする」たんなるはじまりにすぎないといえる。

彼らからもらう名前は大きく分けて2つある。

まず1つは「Bush Name」と呼ばれる名前。

これをどうやって決めるのかよくわからないのだが、自然現象や動物、植物などの名前が多いようだ。ちなみに僕が頂いた名前はさっきも書いたけど「Badikan」。これはWhite Cockatoo(白オウム)の名前の1つ。空をWhite Cockatooがギャオギャオと鳴きながら飛んだりすると「あ?、あれがあんたの名前の鳥だよ。」と教えてもらえたりする。

BADIKAN ホワイトカカトゥ
これが僕の名前でもあるWhite Cockatoo(白オウム)。先日来日したWhite Cockatoo Performing Groupの名前の由来でもある。

そしてもうひとつもらう名前が「Maalk(Skin Name)」と呼ばれる名前。

どちらかというとこちらの名前の方がより多くの人に通用するようだ。この名前は「Dhuwa」の男性に4つ、女性に4つ、「Yirritja」の男性に4つ、女性に4つの計16種類あり、自分のお母さんにあたる人のMaalkに対してその子供のMaalkが決まるシステムになっている。 僕がいただいたのはYirritjaの名前の1つである「Ngarritj」。そしてこの名前が決まるとそれぞれの家族との関係がはっきりと決まり、以降この名前にしたがってアボリジナルの家族との付き合いが本格化していく。

そしてそれからがとても大変!名前をもらった時点から、出会うアボリジナルの人すべてが家族になるのだから!!自分のお母さん(Ngandi)やお父さん(Baapa)をはじめ、おじいさん(父方Mariユmu、母方Ngathi)、おばあさん(父方Momu、母方Maari)、兄弟(Wawa)や姉妹(ともに※Yapa)、叔父さん(※Ngapipi)やおばさん(※Mukul Rumaru)などなどなどなど・・。

※. ここで(  )内に上げた名前は「Gupapuyungu言語グループ」のものです。僕が属した「Gumatj言語グループ」ではほぼ同じように呼ぶようですが、Djaluの属する「Galpu言語グループ」では呼び名が違う場合があります。

そしてみんなを(  )内に記載した呼び方で呼ぶように言われるのだけれど、次々と紹介される家族を初対面で覚えようとしたってそう簡単に覚えきれるものではない!5人目ぐらいから頭は真っ白、笑ってごまかせの世界になる。そしてノートをとりに走っている間にほとんど忘れているという羽目になるのだ。これこそが最初に体験するYolngu Wayなのだ。

何度もSki Beachを訪れているGORIくんや、前回訪れたときに名前を頂いていた僕はある程度の対応ができるようになっていた。しかし今回が初めてのノン君とまゆみは怒涛にように紹介される家族たちにポカ〜ンとしていた。わかるわかるその気持ち!そして急いでノートを用意し、フンフンとうなづきながら忙しくペンを走らせる彼らを僕とGORIくんは温かい目で見守っていたのだった。

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