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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Walking with Spirits フェス再び 後編2-

【Tommy祭り】

イベント本番が始まる前に腹ごしらえをしておくことにした僕たちは、そこら中から掻き集めてきた薪で焚き火を起こし、今夜のメニューである牛丼に入れるタマネギを千切りにし始めた。中華鍋やまな板、包丁から食器、クーラーボックスにいたるまで、必要な道具はすべて持参していた。これができるのが車で旅することの特権だろうと思う。キャンプ生活に慣れているメンバーはテキパキとそれぞれの仕事をこなし、ドンドンと材料が準備されていった。しばらくするとステージからアナウンスが流れたはじめた!その途端、全員が料理の手を止め、耳をダンボにしてその内容を必死に聞きとる。わかりやす過ぎる反応だけど、みんな目が真剣だ。そしてフェスティバル最初の出し物は・・・

カントリー・ダーンス!

「ふわーーーっ」というため息と共にメンバーの肩から力が抜けていく。「まあ最初はこんなもんかー」と納得して全員料理に戻った。

牛丼を作る!
牛丼のあまりの量に焚き火では火力が足りずガソリン・バーナーを使うことに。ってそんなことはどうでもいいんだけどね・・。
続いて始まった白人の演奏者によるロック、カントリー、バラードのバンド3連発がやっと終わる気配を見せ始めたころ、炒め続けていたタマネギがジュージューいい音を立てていた。

そこへ肉の塊をドサッと投入!

メンバーの「おおーーー!!」という驚嘆の声が響く。町の生活でもこれほど豪快に肉を使う機会はほとんどなく、今回は料理も含めてお祭り騒ぎだった。ほぼ時を同じくしてバラードが終わり、また耳をダンボにしながら、次はなんだろうとワクワクしながら待っていると、始まったのはまたまたバラード!!

「なんでやねーーん!」というツッコミとともに期待感は牛丼の方へとシフトしていった・・。

鍋に投入したどでかい肉の塊に火が通ってもなお、ステージからは甘いバラード、そしてまたカントリーが流れ続けていた・・。最低のレベルまで下がりかけていたテンションをなんとか救ってくれたのはついに完成したスペシャル牛丼!気持ちを奮い立てるかのように、勢いよくがっつくメンバー。

「うまーーーーーいいいいい!!」

この牛丼、まじでうまかった。ハフハフいいながらスッカラカンになっていた腹を満たした。いや・・いまだ満たされないままの気持ちを満たしていたのかもしれない・・。そして、食べ終わりかけたころスピーカーから聞き覚えのある低音が!!僕たちはさっきまで無心で食べていた牛丼の事などすべて忘れ、一目散にステージへと走った。

ステージには去年Wugularrコミュニティで出会ったソングマン、Victorの姿。そして隣には僕たちの知らないディジュリドゥ奏者が待機していた。ここまではよかった。しかしなぜか後ろにバイオリンやらチェロやらを持った5人ぐらいの白人が同じように待機している。うーん・・これは悪い予感が・・・。演奏が始まると僕の予感は的中してしまった!

ソングマンVictorは中央アーネム・ランドのRembarrangaという言語でMularraというスタイルの唄を披露してくれた。このスタイルの唄は下記のCDの10曲目でも聞くことができる。Mularraは音源も少なく、生で聞けたのは貴重だった。

Rak Badjalarr ARNHEM LAND -Authentic Australian Aboriginal Songs and Dance
CD 1957・1993年 Larrikin Entertainment
アボリジナル音楽の民族学的研究の先駆者A.P. Elkin教授による1949年録音のレコード『Arnhem Land Vol. 1とVol. 2』から抜粋され、1992年の「国際先住民年」を記念してLarrikin EntertainmentがCD化。

ディジュリドゥ奏者の演奏も中央アーネム・ランド独特の長いドローンと長いトゥーツを組み合わせるスタイル。それもなかなか生で聞くことができない。しかし、しかしだ・・。その感動を遮るかのように、バックにはチェロやらバイオリンやらの現代音楽的な演奏が・・・・。それはどこの誰が聞いたって合っているとはとてもいえない無謀な組み合わせだった・・ソングマンも、そしてディジュリドゥ奏者も、伝統的な曲を彼らの演奏に合わせて歌うということに苦労し、やりにくそうな表情を浮かべている。この光景を前にして僕はやりきれない気持ちでいっぱいになった。

その「無理矢理セッション」が終わると子供達のオリエンタルな雰囲気のダンス、アボリジナルのストーリーを影絵で見せる演出と続く。どこのお祭りでもそうだが、子供達のこうした出し物はとても盛り上がる。僕もこれは無条件で楽しむことができた。そして再び聞き覚えのある低音が会場に響いた。

ステージにはさっきプライベートLambirlbirlを吹かせてくれたNumbulwarのGraemeの姿があった。そして見覚えのあるNumbulwarのソングマンの姿。しかし後ろにはあいかわらずバイオリンやらチェロやらの姿が・・・。

ソングマンの歌のすばらしさは別のフェスティバルで聞いていたので知っていた。彼はNunggubuyu言語グループの出身でMorning Starの唄を披露してくれた。しかし彼もやはり伝統的な曲を彼らの演奏に合わせて歌うということに苦労し、何度も歌を止め、歌い直すというひどい状態が続く。

GraemeのLambirlbirlの演奏も単独ではハイレベルなはずなのだが、やはりバックの演奏に合わせようとしているのかメチャクチャな状態に陥っていた。ここまでくると最高潮まで高まっていた期待感はえもいわれぬ落胆へと変わっていた。

ステージで演奏するGraem
ソロでGraemeの演奏を聴きたかったのだが・・。

そして傷ついた僕らにトドメを刺すようにはじまったのがなんと主催者Tommyの単独ライブ!もう笑うしかなかった・・。

ライトに照らし出されたTommyが歌う!踊る!語る!そのうちギターまで持ち出す始末。「おいおいっ!職権乱用もいいところやん!」という心のツッコミも、Tommyをすりぬけてむなしく空をきっていった・・。だいたい主催者が前面に出てくるイベントってどうなん?みたいな話をしながら苦笑いする僕達。Tommyはもともと出たがりなようで、自らが主催した2004年のキャサリン・フェスティバルのディジュリドゥ・コンペティションでは自分が優勝!この結果発表には開いた口がふさがらなかった・・。しかもちゃっかり賞金まで奪い取っていった。ほかのフェスティバルでは自分が主演したドキュメンタリーの上映会をセッティング。映画の内容はよかったものの、こんなことする主催者聞いたことないでしょ??このとき僕らの間で「Tommy祭り」という新しい単語が生まれた。

そしてフェスティバルも佳境にさしかかった頃になると僕たちはヒシヒシと忍び寄る不吉な予感を拭い去れないでいた。それはこのフェスティバルがこのまま「Tommy祭り」として終わってしまうこと。それだけは避けたかった。もしそうなればオーストラリア大陸縦断の苦労は水の泡と帰してしまう・・。

そしてフェスティバルは僕たちの期待をすべて裏切りながら、無情にも後半戦へと突入していったのだった・・。

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