【いや、まじ、やばいっす】 ついにはじまった「Walking With Spirits」フェスティバルは僕達の予想をはるかに超えたすばらしい内容だった。 ヨーロッパで演出を学んだ映画俳優でもあるトミーが全体の構成をテンポよくまとめていく。このフェスティバルを含め、乾季の間キャサリンのTick Marketで開かれている「CORROBOREE」というWugularr(Beswick)の人たちが自分達の文化を紹介するイベントもこの人の力なしでは成り立たない。 のんびりとしている地元の人たちは時間通りに何かをするというのは特に苦手だ。「明日するよ」といったことが一週間たっても、下手をすると一ヶ月たっても実行されていないこともある。しかしこのような多くのお客さんが期待を胸に世界中から集まっているフェスティバルやイベントとなるとそうはいかない。そのような時に彼がテキパキと指示・段取りを進めていくのだ。たとえば僕達がコミュニティで出会ったディジュリドゥ職人であるMicky Hall やTom Kelly、Franky Laneに一緒にディジュリドゥを作ってほしいと提案するとみんな口をそろえたようにこういうのだ。 「そういうことならトミーに聞いてくれ。彼がすべてやってくれるから。」 そのトミーの今回の演出は、ほぼ80パーセントを伝統的な歌や踊りが占めていた。しかも地元Wugularrコミュニティ周辺、そしてNumbulwarコミュニティ周辺から多くの素晴らしいソングマン、ダンサー、そしてディジュリドゥ奏者が参加していた。 舞台の上には見るからに長老クラスの人たちがずらりと並び彼らが交代で歌を披露していく。しかも僕が所有しているCDにも収録されているような曲が次々と飛び出すのには驚いた。一番興奮したのはWhite Cockatoo「David Blanasi」と組んでいた世界的に有名なソングマン、Black Cocatoo「Djoli Laiwanga」の曲が披露された時だった。 この時だけ今までとは違う高齢のソングマンが登場し(たぶんTom Kerryだったと思うのだが)、自らクラップスティックを持って歌った。彼の声はすでにしゃがれていて歌も聞き取りにくいぐらいだったが周りのソングマンが協力して彼を補足するよう歌う。その高齢のソングマンが途中ディジュリドゥ奏者にクレームをだして、最終的にそのディジュリドゥ奏者は交代させられてしまった。先に吹いていたディジュリドゥ奏者は若いが相当凄腕のプレーヤーだということはいままでの演奏からわかっていた。しかしCDでその曲を聴いていた僕にはすこし違和感があったのも事実だった。あとから登場してきたすこし年配のディジュリドゥ奏者が吹くと実にしっくりと歌になじみ、ソングマンがクレームを出した理由がわかったような気がした。 【Djoli Laiwangaの歌を聞くことができる音源の紹介】 下記CDではBlack CockatooことDjoli Laiwangaの貴重な歌声を聞くことができます。
Wugularrコミュニティ周辺の人たちの舞台が終わったあと、次に登場したのはNumbulwarコミュニティ周辺の人たち。Barungaフェスティバルの時に来ていた「Red Flag Dancers」とは違うグループだったのだが、彼らの歌や踊りは地域のレベルの高さを感じさせる素晴らしいもので、舞台の前の砂の上で長時間にわたって踊り続けていた。彼らの時折あげる叫びや歌声が湖を囲む壁にこだまし、響いていく。踊る彼らの間から夜空に輝く満月に近い月が見えた。それは本当に幻想的な光景で、いま自分がどこにいるのかさえ忘れてしまいそうになるほどだった。 このような濃く素晴らしい時間が深夜までつづき、フェスティバルは終了した。僕たちはこの内容に大満足でそれぞれが受けたインスピレーションを互いに話し合いながら夜が更けていった。おもしろかったのははじめて目の前で彼らの歌や踊りを見たノン君がどっぷりと彼らの世界にはまり込んでいたこと。 「いや、まじ、やばいっす!!」 彼が何度も繰り返し言っていたこの言葉は、短いがすべてを表しているように思えた。 |トップへ|
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