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ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
イダキの内面保護リキッド「イダキの母」使用レポート 1-

【ディジュリドゥと水の関係】

アボリジナルの人たちと一緒にディジュリドゥを吹くとき、彼らが必ずと言っていいほど口にしていた言葉がある。それが・・

「水だ!水を持って来い!!」

彼らは別に喉が渇いているわけではなく、「ディジュリドゥに水が必要だ!」といっているのだ。僕たちが水を持っていくと、彼らはそれを口に含みディジュリドゥのなかに「プワーッ」と吹き込んだ。驚くことに僕が訪れた地域、Djalu Gurruwiwi(※1.)が住んでいる北東アーネム・ランドからDavid Blanasi(※2.)が住んでいたことでも有名なWgularr(Beswick)コミュニティに代表される西アーネム・ランド、果てはNicky Jorrok(※3.)のいるDarwin周辺地域まで、ディジュリドゥが伝統的に使われる全地域共通と言っていいほど同じ光景が見られたのである。

これはなぜか?疑問に思うなら実際に自分のディジュリドゥで試してみるといい。

まずそのまま吹いてみる・・なるほどなるほど。

そして水を通してから吹いてみる・・と、あきらかに違うでしょう?

 

イダキの空洞の中から出て来た白蟻のふん
これが木の内部に詰まっているターマイツ・シット(シロアリの糞)。
乾いた状態だとスカスカとして軽かった音に、音の響きというか、うねりというか、厚みが増して低音から高音まで複雑に絡み合う音に変わっているのがわかると思う。

これはあくまで仮説だけれど、ディジュリドゥ職人がブッシュに入り切り出した原木は、さっきまで生きていたのでタップリと水分を含んでいる。しかも彼らはその木の内部に詰まっているシロアリの糞や土などを、細い木の枝でつついたり、水で洗い流したりする。そしてその状態で全体のサウンドのチューニングを行い、ディジュリドゥを最適な状態に加工しているのである。

その後、製作されたディジュリドゥがどんどんと乾燥していくことは避けられない。しかし乾燥したディジュリドゥに水を加えることで適度に水分が含まれ、さらに乾燥が原因で開きはじめた小さなクラック等を水が塞いで、チューニングした当時の音が再現できるのかもしれない。

ただ悲しいかな、僕たちが彼らと同じことをすれば大切なディジュリドゥは水分の吸収と乾燥を繰り返し、気温の変化も相まって最悪の場合には無数のクラックが入る・・なんてことも起こりえない話ではない。

アボリジナルの人たちはクラックが入ればビニールテープをグルグル巻きにし、ボロボロになるまで使い倒す。それはそれで味があっていい。しかし美しいペイントなどが入っているディジュリドゥを同じように使い倒すには勇気がいる・・。

これはなんとかならないものか・・。

テープをまくのんくん
わざとテープをグルグル巻きにして「セレモニアル・イダキだー」と言って喜ぶかわった人もいる。

 

 


【注釈】
※1. Djalu Gurruwiwi
北東アーネム・ランドのヨォルングの人々の中で最も著名なイダキ奏者でありイダキ製作者。すでにオーストラリア各地はもとより、ドイツ、アメリカ、台湾、UAEなどをツアー、そして2005年にはジャパン・ツアーを果たし、愛知EXPOにも参加している。「Contemporary Master Series 3: DJALU -Djalu Teaches and Plays Yidaki」など、多数のアルバムを録音している。現地でもイダキ・マスターとして敬意を集める天才イダキ奏者。>>戻る

※2. David Blanasi
西アーネム・ランド南部のBarrunga(旧名Bamyili)コミュニティに住むKunbjorrk(Gunborgとも表記される)の伴奏スタイルの天才的Mago(この地域でDidjeriduを意味する言葉)奏者。ロルフ・ハリスのTV番組への出演、様々な展覧会、ライヴ・パフォーマンス活動を通じて70-80年代に世界を席巻し、広くディジュリドゥとアボリジナル音楽を広める。アボリジナルのディジュリドゥ奏者としては初のソロ名義でのアルバム「Didjeridu Master」で一躍有名となるが、2001年に行方不明となる。>>戻る

※3. Nicky Djorrock
Darwin/Belyuen近郊地域で有名なWANGGA(WONGGA)ソングの伴奏スタイルで他の追随を許さない美しいサウンドを鳴らす天才Kenbi(もしくはKanbi。このエリアでDidjeriduを意味する言葉)奏者。2001年にオーストラリア政府機関のAIATSISからリリースされた「Rak Badjalarr 」で、今は亡きソングマンBobby Laneの伴奏をしているのを聞くことができる。のびやかに広がる倍音は他では聞くことのできないサウンドです。>>戻る >>ブラブラ日記のNickyに関する記事を読む

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