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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Merrepen Art Festival編 7.「暗闇の100km牽引」-

【チキンレース?】

皆さんは牽引といえばどんな状況を想像するだろうか? 日本の交通事情のことを考えると、たぶんウインカーをだしてゆっくりと引かれていく車を想像するに違いない。ところが、ここはオーストラリア、しかもアウトバック。レベルが違った。

バイクと道

明るいうちの道はだいたいこんな感じ 夜になると暗闇に包まれ雰囲気はがらっとかわる 動物が飛び出してくる危険もある

彼の運転する車がゆっくりとスタートする。ガツンとした衝撃とともに僕らの車が引かれ始める。するとすぐになぜ彼が眼のことを聞いたか理解できた。ライトをつけていないため暗闇でロープがほとんど見えないのだ。

のりくんも僕もロープに神経を集中し、必死に眼をこらす。少しずつあがり始めたスピードメーターと精神的なプレッシャーの量とは完全にリンクしていた。グングン上がるスピードとともにハンドルを握る手は冷たくなり、じんわりと汗がにじんでいくのがわかる。ちょっとスピード出しすぎちゃうか?と思いはじめたころ、のりくんが不吉なことを口走った。

「あのおっちゃん、この暗闇の中ここまで来るのに時速150kmぐらい出してたんですよね・・。この道は俺の庭みたいなもんだって・・」

まさか!オージーの走り屋?焦る僕らを無視してスピードはさらに上がっていき、ついに60kmを超えた!日本だったら普通に走っているのと変わらない。しかも前の車との距離は約3m、車一台分ぐらいしかない!一歩間違えば即クラッシュだ。

「おっさん、すこしは後ろのことも考えろ!!」

この状況はちょっとしたチキンレースだ。僕らはもうパニック状態。2人とも話をする余裕などまったくなかった。

「でっ、でっ、出口さんっ!危ない!ブレーキ、ブレーキッ!!」

のりくんの悲鳴にも似た声を頼りに必死でブレーキを調整し、ロープのたるみを取り除く。この緊迫した状況がかれこれ一時間ほど続き、僕らが精神的にも肉体的にも限界に近づいたころ前の車がゆっくりとスピードを落としていく。助かったと思った・・。

「ヘイ、ガイズ!なかなかうまくいったじゃないか!気分はどうだ?」

僕らはすでに文句をいう元気もなくグッタリと疲れきっていた。彼は僕らのそんな状態を見ながら爽やかに先を続けた。

「よし、運転も慣れたところで今からが本番だ。ここから先はアップダウンとカーブが続くから気をつけてくれよ!今までよりずっと調整が難しいぞ。さあ急ごう!」

「え・・?」

彼のこの言葉に僕は谷底に突き落とされたような気分になった。ここから先の道は本当に地獄だった。スピードは相変わらず60km前後。この近辺の道は自分の庭だと豪語する彼にはスピードを落とすという考え方そのものが存在しないように思えた。この体験は有名アミューズメントパークの名だたる絶叫マシンに負けていなかったと思う。いままで車を運転してきたなかで一番スリリングで一番長いと感じた100kmだった。

遠くにアデレード・リバーの町の光が見えたときの感動は忘れられない。


【アデレード・リバー】

やっとの思いでたどり着いたアデレード・リバーの町。あまりにも遠く、そして長い一日だった。

「ガイズ!よくがんばったな。おめでとう!」

僕らは彼とがっちりと固い握手を交わし、できる限りの感謝を伝えた。彼の名前はマーコ。アデレード・リバーにあるフィッシュ&チップス店のオーナーであり、のりくんが困っているのを見かねて助けてくれた正義感の強い人だ(のりくんがマーコに出会うまでの苦労話はまた別の機会に紹介します)。彼がいなければ僕らは2日以上のキャンプを余儀なくされたかもしれない。本当にいくら感謝してもしきれなかった。

マーコと別れたあと、ほっと一息つくと急におなかが減ってきた。なにせあの赤い植物しか食べてなかったのだから無理もない。僕らはまだ開いていたバーに駆け込んで、「再び3人そろった記念」とかいいながら格別にうまいビールを飲んだ。と、そのときユウジが店の隅に何かを見つけた。

「おーい!こっちにディジュリドゥがあるでー!」 「まじでっ!どこどこ?」

これだけのトラブルのあと疲れきった体でまだディジュリドゥを求めて走っている自分たちに多少あきれながら、僕らの初フェスティバル体験はすべての幕を下ろしたのだった・・。

車とユウジ&ノリ

翌日、僕らの車はトラックに載せられダーウィンまで運ばれた

「のりくんの孤独なレスキュー奮闘気」
車が故障し、止まってくれた車に乗って一人でアデレード・リバーまで行き助けを呼んできたのり君。結局マーコというスーパー・ブッシュ・ドライバーを連れてきてくれたのだが、その裏にはのり君のなみなみならぬ苦労があった。のり君自身が語るアデレード・リバーでの出来事「のりくんの孤独なレスキュー奮闘記」をブラブラ日記番外編でお届けします。
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