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Research 林 Jeremy Loop Roots
ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -Gamraのディープな楽しみ方 後編 1-

【Burrngupurrngu Wunungmurra】

時間を遡ってオーストラリアに向かう数ヶ月前の話。

Earth Tubeから「珍しいイダキが数本入荷したよ〜。」という連絡が入り、数日後そのイダキを見せてもらうためにEarth Tubeを訪れた。 「これなんやけどね・・」と目の前に出されたそれは、まるで枝のようなほっそりとしたシェイプにシンプルなバンドが数本入った黒いイダキと、オレンジ色に近いオーカーで塗られたこれまた枝のように細くシンプルなイダキの2本だった。

当時、日本で多く見かけるのはDjaluの作品を中心にトップからボトムにかけて徐々に広がった比較的大きく重いものが主流だった。そんななか、枝から作られたのでは?と疑うようなこのイダキの細さはちょっとした驚きを与えてくれた。

出口晴久個人所有のイダキ
左が話に登場するBruceの作品。右はダーウィンで見つけた細身のDjalu
「これって初めてみる感じやけど、誰が作ったん?」

「Bruceっていう人で、年間に数本しかイダキを作らない人らしい(2002年当時はほとんどイダキを作っていなかった)。今回も初めて入荷したんやけど、この2本とあと1本の3本だけやってん。でもEarth Tubeとしてはいま一番オススメの人かもしれへん。」

「ふ〜ん・・」

と答えながらマウスピースのほうを見てこれまたビックリした。

口が小さい!!測ってみると直径たったの2.5センチ。

僕がそれまで吹いていたのは直径だいたい3cm。
こんな小さいの吹けるんかいな??というのが第一印象だった。

その僕の気持ちを察したようにGORIくんが

「いや〜、これが吹いてみるとすごいんっすわ〜。」

と言ってすこし吹いてくれた。

その音を聞いた瞬間、ビビビッと脳の中になにかが噴出するのを感じた。細い見た目からは想像できないような野太くてダーティなサウンド。

過去のアボリジナルの人々の音源を聞くたびに不思議に思っていた「音がザラついた感じ」があった。それは甲虫の羽音のようなヴヴヴという響きが常にどこかで鳴っているような感覚とでも表現したらいいのか。複雑な音の波が何層にも重なったようなその響きに、僕は完全にはまりこんでしまった。

GORIくん曰く、音だけでなく唇のまとまり方がとても勉強になるのだという。

その時点ではこの感覚にはいまいちピンとこなかったのだが、このイダキに何かを感じた僕はその場で購入することを決め、それからというもの、そのイダキばかり吹き続けた。 そして最終的にオーストラリアに持っていく1本として選んだのだった。

今考えればこのイダキとの出会いは、僕にとってターニング・ポイントの一つだったのかもしれない。

そして時間は戻って2005年のGarma会場。

Djaluのテントに到着した僕たちは荷物を車から運び出すのを手伝っていた。しばらくするとYirrkalaのアートセンターのランディが、ほっそりとした背の高い初老のヨォルング男性とその家族らしき人たちと一緒にDjaluのテントにやってきた。その初老の男性は黒いキャップをかぶっていてよく顔が見えない。

「ゴリ、君たちにこの人はもう紹介したかな?」

「う〜ん・・初めてやと思うけど・・」

「じゃあ紹介しておくよ。この人がBruceことBurrngupurrngu Wunungmurraだよ。」

「!!!!」

この瞬間、僕は「来たアアアアア!!!」と目薬のコマーシャルさながらに叫んでしまいそうになった。自分がビビビとやられてしまったイダキを製作した人に会いたいと願うのはイダキ・ヘッズにとってはごく自然なこと。彼に会ってみたいという気持ちは日本を発つ前から強く思い続けていたのだけれど、事前情報としてBruceはYirrkalaからけっこう離れたGurrumuruコミュニティに住んでいるため、会うことは難しいといわれていた。しかしあきらめの悪い僕たちは「もし会えたなら・・」という前提付きで「Bruceと一緒にイダキ・カッティングに行く!」とことを夢見ていた。それがなんと、「もし・・」の部分が今、現実になりかけている。こんなチャンスはもう二度と巡ってこないかもしれない!

僕達は興奮して高ぶる気持ちを押さえ込みながら、できるだけいつもどおりコミュニケーションをとり(声はうわずっていたかも・・)、最終的に高校生の告白タイムさながらに最大のお願いを切り出した。

「でででできれば一緒にイダキを切りに行きたいねんけど・・」

ドキドキしながらその答えを待っていると彼はさらっとこう言ってくれた。

「ああ、いいよ。月曜日にここに戻ってくるから一緒にGurrumuruに行こう。今回は20本ほど製作するつもりだから手伝ってくれたら助かるよ。」

まさに感激、感涙・・。会って数分しか経っていない人間からのいきなりのお願いを、二つ返事でOKしてもらえるなんて、なんという素晴らしい人なんだろう。 僕達は彼とガッチリ固い握手を交わし、月曜日に会うことを約束して別れた。 そしてこの急激な展開に今後の予定をどう合わせていくか、ということを旅のメンバー同士で真剣に話し合った。

そして訪れた約束の月曜日。

予定は未定とはよくいったもので、この素晴らしい展開にこれから自分達が一体どうなるのかドキドキしながら彼を待つ。

しかし・・・いつまでたっても彼は現れなかった。

「ま、アボリジナルの人たちにオンタイムを期待するのは間違ってるよな〜」
と、頭をよぎる悪〜い予感を断ち切るように自分達を励ましあった。

しかし次の日も、その次の日も、彼は姿を見せなかった。
そして僕達がYirrkalaを離れる日も、やっぱり彼は現れなかった・・。

「まっ、こんなもんやって。アハハハハーーはあ・・。」

フワフワとした笑いが後半ため息に変わる。胸に抱いた淡い期待がすこしずつ薄れていくなんともいえない感覚。そして僕達は改めて確認したのだ。これが「アボリジナルの人たちと付き合っていく」ということなのだと。

後日聞いたとことによると彼が再びYirrkalaに現れたのは約束の日から2週間ほど後だったらしい。Manymak!!

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