EarthTube  
Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【前書き】

日本でイダキ(ディジュリドゥ)を吹き、現地録音の音源を聴いていると「現地の生音が聞きたいなぁ。」とぼんやり思う。そして、「もし現地に住んでたら、ディジュリドゥだけじゃなくて、いろんな事を教えてもらえるんやろなぁ。」と想像をふくらませる。「なんで僕ってこんなにディジュリドゥやアボリジナル文化が好きなんやろ?」自分でもよくわからない。そんな漠然としたアボリジナル文化への思いだけが日々、僕の中でただよっていた。

そして突然、僕の人生は日本で行われたアボリジナルの人たちが出演したあるイベントを通じて大きな岐路に向かうことになる。そのイベントに出演していたアボリジナルのアーティストを縁に、コミュニティの住民から「住んでみないか?」という誘いを受けたのだ。しかもそのコミュニティは、伝統的にディジュリドゥを使わないオーストラリア中西部の砂漠地帯にあるコミュニティだった。「う、うーん。どないしよ?」

砂漠という過酷な環境にあるコミュニティ。ディジュリドゥ文化の無い地域。生活習慣がまるっきり違う人達。頭をよぎるのは不安な要素ばかり..。反面、自分の未来へと通じる「なにか」があるという直感だけはある。自分の理性は「砂漠に行っても無意味じゃないの?」とささやく。しかし、直感から湧き起こる気持ちがその理性を吹き飛ばすほどに僕の中で徐々に膨らんでいった。なによりもこんな事は長い人生の中でもそうそうある事じゃない。「今は自分の直感を信じ、流れに身をまかせてみよう!」と、砂漠行きを決めた。

Watiyawanu山/Mt. Liebig
この山の名前は、現地の言葉でWatiyawanu。英語名ではMT.Liebig。コミュニティ近くにある山で、このコミュニティの名前の由来でもある。
舞台となるコミュニティは、広大なオーストラリアの有名な観光名所の一つであり、大地のへそとも言うべきUluru/Ayers Rock(エアーズ・ロック)の玄関口として栄える町、Alice Springs(以下アリス・スプリングス)より西へおよそ310Km離れた所にあるWatiyawanu (英名 : Mt.Liebig)だ。アリス・スプリングスからの移動時間は車で4時間弱。パブやデパートはおろか銀行といった公共施設のないコミュニティに2006年の11月から1年ほど滞在させてもらった。

狩りに誘われカンガルーやトカゲ、木の実など大地の恵みを自然なままに食べる日々。観光客から住人となったことで改めて気付いた事。アボリジナル、白人、日本のそれぞれの習慣による衝突。この地で体験した生活は、今まで僕の中にあったアボリジナルや白人に対する先入観を大きく変え、様々な物の考え方をもたらしてくれた。

アボリジナルではなく白人でもない日本人。コミュニティに暮らすソシアル・ワーカーの一員だけれども、そこをホームランドとして住み続ける内部的な存在ではない。そうかといって、短期的なヴィジターのような外部の存在でもない。そんな「ニュートラル」な僕の視点で、一年間に及ぶコミュニティ・ライフを、これから連載していくコラム『レッド・センター / 砂漠のアボリジナルと住む』で綴っていこうと思う。

アボリジナルは祖先とのつながりのある土地や風習、歴史などがバックグランドとなって様々な生活習慣のもとで暮らし続けている。

例えば、僕の暮らした地域のアボリジナルの人たちは伝統的にMaku(英名 Witchetty Grub : 蛾の幼虫)を食べる。だからといってオーストラリア全域のアボリジナルが食べるかというとそうでもない。つまり、Watiyawanuで暮らす人々の文化が他の地域で暮らす人々の文化と同じではないという事だ。

Walking down the bush road
砂漠地帯の夕日を浴びながら、アボリジナル、白人、そして撮影者の僕が、狩りを終えてコミュニティに帰るところ。

部分的な知識だけでは全体的な物事を捉えるのは難しい。その逆もしかりだ。ただ『レッド・センター』が部分的ではあるけれども、コミュニティで暮らすアボリジナルの生活をかいま見ることの出来る一つのツールになることを信じたい。そしてより深く彼らの文化を知ってもらいたい。なによりもそれが今までお世話になった人達と僕の願いだから。

大八木 一秀 
(C)2004 Earth Tube All Right Reserved.