ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Walking with Spirits フェス再び 前編3-

【プライベートLambirlbirlを吹く!】

Wugularrコミュニティからフェスティバル会場であるBeswick Fallまでは約15km。2004年のブラブラ日記でも紹介したけれど、この道が日本では考えられないぐらいハードな未舗装路なのだ。なんといってもやっかいなのが「ブル・ダスト」と呼ばれる小麦粉のように細かい砂が積もっている区間。まるでアリ地獄のようなこの道に捕まれば普通の車で抜け出すことは難しい。

2004年、僕とのりくんはピカピカのレンタカーで、ノンくんと仲間たちは二輪駆動車のハイエースでこの道を走破していた。最終的に僕とのりくんは一回もスタックすることなく走破できたのだが、ノンくんたちはこのアリ地獄につかまり、四駆に牽引してもらう羽目になったらしい。2004年の苦労についてはこちらを参照(※. 別ウィンドウで開きます)。

砂まみれのランクル
あれだけ苦労した未舗装路を難なく走破したランドクルーザー。やっぱ頼りになるわー。
しかし今回はなんといっても最強の四輪駆動車「ランドクルーザー」がついている!

僕たちは何も恐れることなくブル・ダストに突っ込んでいった。巻き上がる砂煙、左右に振られるハンドル!

しかし!そんなことはこの車にとってなんの問題でもなかったのだ!!そして去年の苦労が嘘のように、あっと言う間に会場へ到着したのだった。

やっぱりすごいぞランドクルーザー!!

ただ一つ問題だったのは、この車値段がお高い割にはいたるところ隙間だらけ。後ろの扉の隙間からはなんと空が見える!というわけで、小麦粉並みに細かい砂は難なく車内に入り込み、まるで砂嵐に巻き込まれたかのような悲惨な状態に。もう少し気密性を高めてほしいものだ・・。

会場に到着すると、駐車場とは名ばかりの荒れたブッシュにすでにたくさんの車が止まっていた。会場ではフェスティバルの準備が慌しく進んでいる。僕たちはその慌しさを横目に見ながら、砂の上に建てられた物品販売テントへと直行していた。

目的はもちろん!Mago(ディジュリドゥ)!

販売テントに到着してみると、去年はたったの3本ぐらいしか並んでいなかったディジュリドゥが20〜30本近く並んでいるじゃないか!なかにはNumbulwarの職人の作品も何本か含まれている。僕たちは早速試し吹きを始めた。

Wugularrがある西アーネムランド周辺では、Mago職人自体の数が非常に少ないようだ。文句なしのディジュリドゥ・マスターであったDavid Blanasi以降、表立ってでてくるMago奏者/職人がほとんどいないこの地域では、直接コミュニティを訪れたとしても良い作品を手に入れるのは至難の業と言える。

Mago職人であり演奏者でもあったBlanasiに対し、Frankie Laneは職人ではあっても演奏者ではないので、その製作は長年の経験と職人の勘に頼っているような印象を受ける。必然的にその出来はピンからキリまで幅広く、吹いてみないとわからないのが現状だ。

Flankie LaneのGamak Mago

これがFrankie Laneの作品。この地域では数少ない名品だと思う。

そのなかでも全員一致で「これはいい!」と判断されたのが写真に写っているFrankie Laneの作品。

とにかく誰よりも早く良い作品を手に入れた僕たちはベースとなるキャンプを張り、ディジュリドゥを吹いたり、湖や森を見に行ったり、思い思いのことをして過ごした。 フェスティバルが始まるのは日が落ちてから。開場まで時間はたっぷりある。 僕たちはディジュリドゥ奏者との出会いを求めて、会場内をさまようことにした。

会場内をブラブラと歩いていると、僕たちのキャンプの近くの小さな木陰で、のんびりと座っているアボリジナルの人たちのグループが目にとまった。なんとそのうちの一人は黒いビニールテープが全体に巻かれたディジュリドゥを手元に置いているじゃないか!これは行かなければ!

僕とノンくんはジリジリと彼らに近づいていった・・彼らも僕たちのただならぬ気配に気づいたのか、こちらをチラッと一瞥した!しかしその表情に笑顔はない・・。「ううっ、この雰囲気はNGか?」と思ったそのとき、グループの中にいたショート・ドレッドのおじちゃんが僕に声をかけてくれた。

「おおっ?俺はお前を知ってるぞ!去年もここに来ていただろう?俺のこと覚えてるか?」

「あー!!おじちゃん、もしかしてNumbulwarから来てたMorning Starの??」

「そうだ、そうだ!」

僕もこのドレッドのおじちゃんの顔に見覚えがあった。彼らは2004年のこのフェスティバルに参加していたNumbulwarのMorning Starダンスグループの人たちだったのだ。 僕は2004年の旅の中でNumbulwarの人たちに3回会っている。

最初はBarungaフェスティバルでRed Flag Dancers(※. Numbulwarの伝統的な歌と踊りのグループ)とYilila(※. Numbulwarの若手が作るロック・レゲエ・グループ)の人たちに、2回目はここWalking with SpiritsフェスティバルでMorning Starダンスグループの人たちに、そして最後はGarma FestivalでRed Flag Dancersにもう一度とかなりの顔合わせ。

・2004年Barungaフェスティバル編はこちらを参照(※. 別ウィンドウで開きます)。
・2004年Walking with Spirits編についてはこちらを参照(※. 別ウィンドウで開きます)。
Beswick Fallにできたプール
これがフェスティバルの会場であるBeswick Fall。とても美しく瑞々しい場所だ。
それぞれ出会った人たちが次々と繋がっていき、新しい出会いを導いてくれる。これほどうれしいことはない。

この会話以降、その場の雰囲気が一気に和らぎ、僕たちは彼らの輪のなかになじむことができた。それから今日のフェスティバルのことや去年のフェスティバルのことなど話しながらディジュリドゥのことについて切り出すタイミングを狙っていた。

横にいたノンくんも「デグチさん!まだですか??」という顔をしている。「うー、そろそろいってみるか!」意を決した僕はついに切り出した!

「これ、Lambirlbirlだよねー?」

「!?」

この一言にその場にいた全員が一瞬驚いたような表情を見せたあと、「そうだそうだLambirlbirlだよ!」と盛り上がってくれた。よっしゃーー!つかみはオッケイ! 実はこの「Lambirlbirl」Numbulwarの人たちの言語Nunggubuyuでディジュリドゥを差す単語なのだ。

彼らが一瞬驚いたのは外国人でこの名前を知っている人が少ないから。僕はそのことをわかった上で彼らを驚かしてみたのだ。僕のこの作戦は大成功だった。 そしてすかさず次の展開を切り出す。

「吹いてみていい?」

「お前吹けるのか?吹いてみろ!」

やったー!ついに彼らのプライベートディジュリドゥ、Lambirlbirlが吹ける!しかもこれがとても美しい楽器だった。

黒いビニールテープでグルグル巻きにしてあるものの、それがいい楽器であることは見た目からある程度判断できた。正確に測ったわけではないがマウスピースは3cmよりすこし小さいぐらい、ボトムまでスーッと自然に広がる美しい形をしていた。

吹いてみるとこれまだすごい!

自然なバックプレッシャーが心地よく、Numbulwarの人たちが好む高いキーもあいまってレスポンスが異常にいい。しかも高いキーでありながら低音も響くという厚みのある音だった。

Lhambirlbirlを演奏するGraem
これがそのLambirlbirl。演奏しているのはダンサーでありディジュリドゥ奏者のBranggu。
© Branggu (Graeme) Nunggagarlu 2006
この写真の使用はNumbulwarコミュニティと連絡を取って直接Brangguから許可を頂きました。アボリジナルの肖像権を守るためにも無断転載禁止を遵守して下さい。

僕とノンくんがLambirlbirlのすばらしさに感激していると、GORI君が遠くから「兄さんら、抜け駆けやんかー!!」とブツブツ言いながらこっちに向かって急いでいた。 彼が到着すると僕はすかさず「彼がナンバーワンプレーヤーだよ」と彼らに紹介した。案の定「吹け吹け!」という展開になる。これは面白いことになりそうだ。

GORI君が演奏を始めると・・・彼らは目を丸くして驚いていた。 そして「なんで日本人がこれほど吹けるんだ??」と、ある意味あきれているのが表情から読み取れた。GORI君が演奏を終えると「お前がナンバーワンだ!」と賞賛の言葉を惜しみなくかけてくれる。現地の人たちから賞賛されるGORI君はやっぱりすごい奏者だ。

そんなこんなで充実した時間を過ごしていると、ついにフェスティバルが始まりそうな気配がしてきた。さあ、今年のフェスティバルはどうなるのか、楽しみだ!!