Peter Lister|イダキ奏者/ヨォルング文化研究者
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3. オーストラリアの言語

驚くべき事に、オーストラリアでは約110種の言語/方言がいまだ話され、その数は最初に話されていた言語の約1/3の数である。アボリジナルの言語には文字がなく、いまだ綴りに障害がある。アボリジナルの言語の音には英語とは異なるものもあり、この二つの問題が名前の呼び間違えと名前の未一致、そして特定の植物や動物に関しての数多くの混乱を生み出す要素になっている。これは、名前の不一致によって危険になりかねない薬効のある植物や、潜在的なブッシュ・フードがあるという事を暗に意味している。

[以下のリンクで紹介されているサウンド・ファイルは、音量が少し小さいです。少し音量を上げないと聞きづらいかもしれません。御注意下さい。]

オーストラリア人は、オーストラリア固有の言語についてかなり無知であり、アボリジナルの言語を話すノン・アボリジナルは非常に少ない。メディア業界では、様々な多文化イベントや重要人物の非英語の名称を発音する努力をしているが、いまだアボリジナルの言葉を正しく発音できていない。アボリジナル・ロック・バンドYothu Yindimp3 : 43kb)は現在まで10年間にわたって公然の目に触れてきたが、「Australian of the Year」を受賞など、文化的かつ職業的に重要な地位についているManduwuy Yunupingump3 : 75kb)や彼の兄Galarrwuymp3 : 35kb)らの名前はおろか、そのバンド名すら私達は正しく発音することができない。

言語を知っているという事は大いに役立つ。実際、民族植物学(植物がどのようにその社会で使われるのかなど伝統的な民族社会と植物の関係性を研究する学問)や、民族生態学(伝統的な民族社会が自然環境の中から見い出した知識や、伝統文化について研究する学問)の分野で働く時には、その地域の言語の習得は必要不可欠であろう。言語を知っていれば翻訳の明瞭性を得ることができ、用語体系に曖昧性がなくなり、その土地の相談役達とより良い関係を築くことができるだろう。

以下は、アボリジナルの言語の発音の簡単な基本的法則の一部です;

1. オーストラリアの言語の大半では、たいていアクセントが最初の音節にくる。

例:Gundungurra(mp3 : 65kb)[Gandangarraと綴るかもしれない] / Blue Mountains現地の人々
  Gunwinggu(mp3 : 67kb) / 西アーネム・ランドの言語グループ

2. t」、「p」、「k」の文字はそれぞれ、「d」、「b」、「g」により近い音で発音される。一般的にアボリジナルの言語は、英語のように強く帯気(子音の後、母音の前にある[h]の音を発音すること)させて発音されない。

例: Tjapukai(mp3 : 40kb)北クイーンズランド州の沿岸部の言語

3. ・「a」は英語の「father(ファーザー)」のように発音される。

  例:palya(mp3 : 35kb)

・「u」は英語の「put(プット)」のように発音される。

  例:ngura(mp3 : 46kb)

・「i」は英語の「hid(ヒド)」のように発音される。

  例:tjitji(mp3 : 39kb)

・「ng」は英語の「singer(シンガー)」のように発音される。これは我々にとっては難しいサウンドです。

「orangutan [ouraengu:taen](オランウータン)」、「hangover(ハングオーバー)」、や「dingeridoo(ディンゲリドゥ:これは作った言葉です)」、それぞれの言葉が「ng」で始まるまで、徐々に1文字づつはずして言ってみて下さい。
例えば、orangutan, rangutan, ngutan (mp3 : 59kb)、もしくは hangover, angover, ngover (mp3 : 53kb)、もしくは dingeridoo, ingeridoo, ngeridoo(mp3 : 63kb)。


・アボリジナルの言葉の最初に「Ng」がくるのは非常に一般的である。

Pitjantjatjaraの例:ngayulu (I:私)(41kb) ngalkun (eat:食べる)(mp3 : 46kb) ngura (home:家)(mp3 : 41kb)
Yolngu Matha(ヨォルング語)の例:ngali (we two:我々二人)(mp3 : 36kb) ngarali (tobacco:タバコ)(mp3 : 46kb) ngatha (plant food:植物性の食物)(mp3 : 46kb)

4. r」には2種類あり、そり舌にした「r」は米英語の「r」に似ており、「n」、「l」、「t」の前に置かれる事が多く、その前にある「r」は記述されずに「n」、「l」、「t」のように下線をつけて記述される。

例:punu(39kb)、tjuntala(39kb)、tjuta(41kb)

スコットランドの「r」のような舌のそりが急な、あるいは巻舌の「r」もあり、「rr」と表記されることが多い。

例:Galarrwuy(35kb)、Yirrkala(42kb)

曖昧さを避けるためにも、音のわずかな違いを正しく発音するには細心の注意が払われるべきである。

例えば、Pitjantjatjara語ではpiti(70kb)という言葉は、大きな木製の皿を意味し、piti(下線の付いた「t」の前には、そり舌の「r」がある)は、地面の穴を意味している。



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