ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Walking with Spirits フェス再び 前編1-

【僕たちのベースキャンプ、キャサリン】

2004年の大事故の回想から時は戻って、キャサリンのココズ・バックパーズ。長々と回想編を書いてしまったため、キャサリンに到着するまでのストーリーはもう忘れてしまった?という人が多いかもしれない。というわけで少しだけ前回までのストーリーを振り返ってみよう。

オーストラリア随一の大都会、ニューサウスウェールズ州のシドニーでトヨタ・ランドクルーザーを購入した僕たちは、ノーザン・テリトリー州キャサリン近郊のWugularrコミュニティで行われる「Walking with Spirits フェスティバル(.昨年のフェスティバルのリポートを読む)」に参加するため、ひたすら北を目指して中央砂漠地帯を走り続けた。そして前回、オーストラリア大陸中央部に位置するアリス・スプリングスの町からキャサリンまで1,200kmを一日で走りきるという強行にでた。そしてキャサリンまで残りわずか20kmというところでゲージの故障というトラブルに見舞われてしまった。

それでもなんとかキャサリンの町に入りココズ・バックパッカーズに到着し、ココズ・バックパッカーズのココさん、そしてフェスティバルに参加するため日本から駆けつけていたカズくんと共に、去年の大事故を回想していたのだった。ここまでが前回のストーリー。みなさん思い出せただろうか?

そしてついに念願のWalking With Spiritsフェスティバルの開催日が明日にせまっていた。出発前にまずゲージのトラブルの原因を究明するため、ココさんオススメの修理屋に車を持ち込むことにした。

Hobbit Auto Electrics
ここが僕らが毎度お世話になっているAUTO ELECTRICS HOBBIT。仕事の手際のよさはオージーとは思えない。
この修理屋は、2004年に大事故を起こした「日産ナバロ」のバッテリー交換の時にお世話になったのだが、その仕事の手際のよさ、そして速さは、「ノーザン・テリトリー州のオージーは仕事が遅い」という僕らのイメージを払拭してくれた。以来、ここは僕たちにとって駆け込み寺のような店になっていた。

さっそくゲージの調子を確認してもらうと、2つの可能性があるという。一つはただのゲージの表示の故障。そしてもう一つの可能性は深刻なエンジンのトラブル! 万が一、後者だとこれ以上旅は続けられなくなるかもしれない!

天国と地獄を分けるこの診断には専門の機材が必要ということになり昼過ぎまで待つことになった。 この先の展開を決める診断で時間があいてしまったので、ここで僕たちが滞在しているキャサリンという町についてすこし説明しておこう。

キャサリンはダーウィンから約330kmほど南に下った場所に位置する、ノーザン・テリトリー州の中ではダーウィン、アリス・スプリングスに続く3番目に大きな町だ。この町は東西南北に走る主要道路が近隣に集中する交通の要所ということもあり、世界中の旅行者やバックパッカー達が行きかう出会いと別れの町でもある。

「3番目に大きい町」とはいうものの、車ならゆっくり走っても10分以内で通り過ぎてしまうのだから、その大きさもたかが知れている。銀行や郵便局、スーパー、小さな映画館、ネットカフェ、図書館など、すべての施設がココズ・バックパッカーズから歩いて10分以内の距離。最初はこんな小さな町で、毎日なにをして過ごしたらいいんだろう?と戸惑った。だけど時が経つにつれ、日本から持ち込んだ(知らず知らず日本から持ち込んでしまっていた)正確で忙しい時間の感覚が薄れていき、この町のゆったりとした時間の流れがとても心地よく感じるようになっていった。以来キャサリンは僕たちの行動の中心地、ベースキャンプとなっていた。

市内をブラブラと歩いてみると、すぐに他の町ではなかなか見られない特徴があることに気づくだろう。

それは町中をたくさんのアボリジナルの人々が歩いているということだ。その比率は半分とまではいかないかもしれないけれど、それに近いんじゃないだろうか。

昼間には町の中央分離帯の木陰でのんびりと座っているアボリジナルの家族をよく見かける。僕はこの風景が平和な感じがしてとても好きだ。

キャサリンの街の中央分離帯
これが中央分離帯。アボリジナルの家族がよくのんびりと過ごしている。写真の使用許可の問題もあり、あえて誰もいないときに写真をとった。

アボリジナルの人たちをめぐっては根強く残る偏見、アルコールの問題、グループ間の言い争いや乱闘など、いまだにさまざまな問題が山積みになっている。ここキャサリンも夜になると酔っ払いも多く例外ではないのだが、ダーウィンなどに比べれば比較的ゆるい雰囲気の町だといえるだろう。

ここでアボリジナルの人たちとのちょっとしたエピソードを紹介しようと思う。

左から 林靖徳 出口晴久 Nicky Jorrock 長谷順二
これが絡まれてるように見えますか?My best friend!
ひとつは僕たちがKenbi奏者のNicky JorrokとソングマンであるKevinの二人と一緒にダーウィンの公園で楽しく話をしていた時のこと。

前を通りかかった一台の車が僕たちの前に止まり、助手席から顔を出した女性が「Are you Guys OK??(君たち大丈夫??)」と心配そうな顔で声をかけてきた。

僕らは一瞬、彼女がなにを心配しているのかわからなかったのだが、Nickyたちはすぐにその言葉の意味を理解したらしく「はははっ!大丈夫かだって??俺たちは友達だよなあ!」と笑い飛ばした。

つまり彼女は何もしらない日本人旅行者がアボリジナルの人たちに絡まれていると勘違いしたわけだ。僕たちはこの出来事をネタにひとしきり笑った。

もうひとつのエピソードはダーウィン・フェスティバルで出会ったYidaki奏者、Jonney Aceを訪ねてキャサリンから105km南に位置するマタランカ(Mataranka)という町を訪れた時のことだ。無事にJonneyに出会えた僕たちは、彼の家族と一緒に話しをしたり、ディジュリドゥを演奏したりして楽しい時間を過ごした。そしてその帰り、彼らの兄弟がキャサリンまで乗せていってほしいというので一緒に帰ることにした。その車中で彼らが話してくれたことがある。それはこんな内容だった。

「マタランカを訪れた日本人で私たちに声をかけてきたのはあなたたちが初めてよ。」

「ほとんどの日本人は目をそらして通りすぎるか、俺たちをまったく無視するんだ。」

「あなたたちはとても礼儀正しい人たちね。」

アボリジナルの人たちと付き合うときには、うわさに惑わされたり先入観で判断したりするのではなく、自分の目で、自分の心で、そして自分の判断でよい関係を築いてほしいと僕は思う。

ちょっと横道にそれてしまったけれど、そろそろ本文に戻ろう。町をブラブラしている間に昼が近づいていた。そろそろ車の検査も終わっているころだろう。というわけで僕たちは修理屋に戻ってみることにした。

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