ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -ついにNicky Jorrockに出会う編 6-

【ディジュリドゥ職人、Mitchin】

「Belyuenコミュニティにディジュリドゥを作れる人はもういない。」

この衝撃的な事実をMitchinから聞かされた。彼が言うには「Belyuenコミュニティにはソングマンはたくさんいる。ディジュリドゥ奏者もNickyを含めて数人いる。しかしディジュリドゥ職人はもういない」というのだ。その事実を証明するかのように、Nickyが吹いているディジュリドゥ「Kenbi」はMitchinが作っている。つまりMitchinは白人でありながらNickyたちに楽器を提供しているBelyuen地域で唯一のディジュリドゥ職人なのだ。

日も傾きはじめたので僕らはNicky、Henryと別れ、今晩泊めてもらえることになったMitchinの家へ向かった。マンドーラから未舗装路をガタガタとひた走る。両側は一面のブッシュ。たまに野生の馬が走っているのが見える。ダーウィンからすこし離れただけでこんな世界が広がっているということにあらためて驚いた。そんな道を走ること数十分、急に彼はさらにブッシュの奥に続く道へと車を向けた。そして周りを囲むように生える木々のトンネルの間をすり抜けて少し行くと、簡単に作られたゲートと土地を区切る柵が現れた。

「ようこそ我が家へ!」

Mitchinの家のバックヤードで

後ろに見えるのがMitchinの手作りの家。いっぱいいるカンガルーは飼っているのではなく、野生のものが家に遊びにきているらしい・・。

本当にここが家?と思いたくなるほどまわりは本当にブッシュだけ。敷地の中にはアリ塚まである。

ゲートを入ってすこし走ると彼が自分で作ったという家が目の前に現れた。手作りとはとても思えない立派な作りだ。

広い庭には5〜6匹のカンガルーがピョンピョン走り回り、鶏がココッ、ココッと鳴いている。奥には立派な白い牛までいる。ワイルド・ライフ・パークかここは・・。

聞くと奥さんは本当にワイルド・ライフ・パークで働いているらしい。うーむ、すばらしいカップルだ。

それから家の中を案内してもらったのだが、家の完成度とMitchinのディジュリドゥ・バカぶりに僕とカンチくんはずっと感心しっぱなし。家の中には彼のスペシャル・コレクションのディジュリドゥ(すべて自分で作ったもの!)が並べられ、CDの棚には伝統的なアボリジナル音楽のレアな音源が並んでいる。その横には自分の音を確認するためのマイクシステム。

そして「ここがスペシャルな場所なんだ」といって案内されたのは風呂場の横のちょっとしたスペース。ここは完成したディジュリドゥのサウンドを最終確認する場所らしい。そして外にはディジュリドゥ専用の工房まで作られていた。恐れ入りました。まさかノン・アボリジナルのオーストラリア人でここまで追求している人がいるなんて。

Mitchinは今、NickyをはじめBelyuenの人たちのためにディジュリドゥを作り、提供している。ノン・アボリジナルの彼がここまでBelyuenの人たちの中に入りこめているのは彼のオープンな人柄とアボリジナルの文化をリスペクトする真摯な気持ち、そして彼らが満足できるだけのディジュリドゥ職人としての確かな技術があるからだろう。

今のBelyuenに彼Mitchinがいたということの重要性は計り知れない。
Mitchinと彼のディジュリドゥ

これがMitchinのスペシャルコレクション。それぞれテープやCDのなかの特定の曲に合わせて作られていたりする。ペイントもすごい。

Mitchinの家で楽しい一夜を過ごした後、僕らは再びマンドーラの港に戻ってきた。 今回Belyuenコミュニティを訪れてみて感じたことは、ほかの地域では感じられないほど気さくなBelyuenの人達の人柄と、外部からの来客を迎え入れるオープンな雰囲気だった。そして一方で彼ら自身のカルチャーを強く感じさせるような出来事にはほとんど遭遇しなかった。

たとえばみんな英語をとても流暢に話せるので、ほかの地域、たとえばYrrikalaのように彼ら自身の言語で話をしているのをほとんど聞かなかった。ショッキングだったのはNickyが彼ら自身の言語でクラップスティックをなんと呼んでいるのか忘れていたこと。ディジュリドゥの名前についても、彼は最初は「自分達の言語でこれはBambooだ」と言い、僕らが「Kenbiとは呼ばないの?」と聞くまでその名称は出てこなかった。

ディジュリドゥに関して言えば、先にも述べたようにソングマンはともかくとして、ディジュリドゥを作れる職人はもういないらしいし、Nickyが吹いているディジュリドゥはノン・アボリジナルであるMitchinが製作し提供している。Nickyには息子がいるが彼はディジュリドゥをほとんど吹くことができない。僕らが後日コミュニティを訪れたとき、僕らがディジュリドゥを吹いているのを聞きながらNickyが息子に「お前も吹け」と何度もすすめているのが印象的だった。

フェリーを待っている間、港のベンチに座りディジュリドゥを吹いていると、たまたま居合わせたベロベロに酔っ払ったアボリジナルの男性が歌を歌ってくれた。その声にはHenryのような力はなく、歌の歌詞も適当な感じだった。僕は一抹の寂しさを感じながらもリアルさを感じさせるこの場所になぜか強い愛着を覚えてた。

「またここに戻って来よう」、そう心に決めてフェリーに乗り込んだ。 帰りのフェリーでは行きとはまた違った匂いのする海の風が気持ちよかった。

さあ次はWugullarr(Beswick)で開催されるWalking with Spirits Festivalだ!

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