ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -スピリチュアル・ツアー編 4-

【プールに噴水?驚きのWadeyeコミュニティ】

Wadeyeコミュニティはダーウィン南西部の沿岸、Timor Seaに接するようにして作られた大きなコミュニティだ。ノーザン・テリトリー州全体で見てもその規模は大きく、近隣の7つ以上の言語グループから人々が集まってきている。初めて足を踏み入れたときに感じたのもその規模の大きさと設備の充実度だった。

まずはじめに目を引いたのは噴水のある大きなプール。そこで多くの子供達が楽しそうに水浴びをしていて、いきなりビックリさせられた。プールの隣には木々に囲まれたきれいな学校がある。コミュニティを横切るように一直線に伸びる中央分離帯のある大通り沿いには、コミュニティセンターやATMのあるスーパーマーケット、さらには八百屋、ラジオ局などが並ぶ。そして僕たちの目的のひとつでもある「Wadeye Art and Cultural Centre」もその通り沿いにあった。

アートセンター

これがWadeyeのアートセンターの外観。この地方独特のペイントが施されている。アートセンターの中の写真を公開することは許可されなかった。

アートセンターは倉庫のような大きな建物で、中に入ろうとすると扉に鍵がかかっていた。隣のスーパーマーケットで尋ねると、今は休憩中で次の営業までけっこう時間があることがわかった。

それなら・・と僕らも先に食事を済ませることにして学校のそばの木の陰にシートを広げ、即席のサンドウィッチとサラダをほおばった。「腹の皮が突っ張るとまぶたが緩む」とはよくいったもので、みんなしばしの昼寝タイム。まぶたに降り注ぐ木漏れ日がオレンジ色に透けて見え、なぜか心が落ち着く。

耳には遠くではしゃぐ子供達の声や木の葉の揺れる音、人々がしゃべる声などが聞こえてくる・・。まるで別世界にいるような浮遊感に包まれながら僕は眠りに落ちてしまった・・。

「ハル、そろそろいこうか」

誰かに声を掛けられてゆっくりと目を開けると、先に起きていたメンバーが食器などを片付けているのが見えた。ここはどこだろう・・そう思ってから記憶をたどるまでにすこしの時間が必要だった。そうだ、僕はWadeyeに来ているんだったな・・。

再びアートセンターを訪れてみると、すでにオープンしているらしく鍵はかかっていなかった。扉を開けると、中は薄暗くなっていて、突然の光の変化に目がついていけず視界がぼやける。すこしずつ目がなれてくるとこの地方独特のペイントが施された20本程度のディジュリドゥが飛び込んできた。

「おーーーーっ!!」

この光景にメンバーのアドレナリン分泌量が一気に高まった。我先にとためし吹きを始め、さっきまで静かだったアートセンターのあちらこちらにディジュリドゥの音がこだました。かれこれ1時間は吹いただろうか、最終的にユウジ、ノン君が1本ずつ、マルコスが2本購入してアートセンターは最初の静けさを取り戻した。僕はと言うと、並んでいたディジュリドゥからはこの地方の特色が掴みきれず、結局1本も購入することができなかった。

一通りの品定めが終わったあと、アートセンターの係員であるジャネットに僕たちの滞在許可がおりているかどうか確認してみた。彼女は早速カウンシルに電話をしてくれたのだがどうも様子がおかしい。後で聞くと僕たちが滞在するという件がカウンシルの担当者に伝わっていなかったようで、トラブルが発生したようだ。彼女は僕らにここですこし待つように言うとカウンシルへ説明に走ってくれた。

詳しい経緯を説明すると、実はマルコスは直接カウンシルに許可申請を出していたのではなく、「許可申請をしてほしいという用件を書いたFAX」をアートセンターに送っただけだったのだ。そのFAXがアートセンターで止まっていたため、カウンシルからの許可がまだ下りていなかったというわけだ。

しばらくするとジャネットが年配の男性を連れて帰ってきた。彼はこのあたりの土地の所有者の一人らしく僕らを歓迎するとともに、カウンシルに僕らの滞在が許可されるように働きかけてくれたらしい。
スーパーの壁画

コミュニティ内のいたるところに壁画が描かれている。これはスーパーマーケットの壁。

「なにも心配することはない。許可はきっとおりるよ。私はあなたたちがこのコミュニティを訪れてくれたことを歓迎する。」

その年配の男性は僕たちにこう言ってくれた。けれど、このあたりの土地の所有者は彼一人ではないため交渉は難航しているらしく、僕たちはしばらくの間アートセンターに足止めされることになった。

彼とジャネットの力添えがあったおかげで、なんとか滞在許可はおりることになったのだが、もし許可がおりなければ僕たちはすぐに帰らなければいけないところだった。ここで改めて許可申請の重要性を認識したのだった。

トラブルも一段落したところでジャネットに今回の旅の一番の目的であるディジュリドゥ職人Claver Demmuの所在を聞いてみた。すると予想だにしない答えが返ってきたのだ。

「あら?Claver Demmuなら朝からダーウィンに行っているわよ?」
「えーーーーー!!なんで???」

なんと彼は僕たちと入れ違いに、目の治療のためダーウィンへ行っているというのだ。 フラフラと力が抜けるメンバーたち。なんでこう毎回ハプニングばかり続くのかわからなかった。ガックリとうなだれる僕たちをみてかわいそうに思ったのか、ジャネットがこの地域を案内できる人を紹介してあげるといってくれた。そして出会ったのがリチャードという画家の青年。僕たちは彼と明日から1泊2日のキャンプに出かける約束をしてアートセンターをあとにした。

夕日とビーチ

まさに黄金色に輝く海。ここまできてよかったと思えた瞬間だった。

まだ日も高かったので、今夜のキャンプ地へ向かう前にジャネットが紹介してくれたコミュニティの近くの海岸によってみることにした。町を下りブッシュを抜けていくと、そこにはインドネシアへと続くTimor Seaの美しい海と白い砂浜が広がっていた。

あまりに素晴らしい場所だったので、僕たちは夕暮れまでの数時間その海岸で思い思いのことをして過ごした。空の色を映した海は時間とともに少しずつその色彩を変えていき、太陽が地平線に近づいた頃にはあたりは黄金色の光に満たされていた。

「ここまで来てよかった」。全員がそう感じた瞬間に違いない。明日はどんな展開が待っているのかいまから楽しみでしょうがなかった。