ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -ミンディルビーチ・マーケット編 4-

【ブロルガのソングマン マーク】

マークおじいちゃんはブロンソンと同じGroote Eylandt出身のソングマンだ。 ヒゲに緑のリュックがトレードマークの、こういったら失礼かもしれないが「ちょっとかわいい」おじいちゃんだ。

マーク

Groote Eylandtのソングマン
マーク

僕が最初に彼に出会ったのはのりくん、ブロンソンと一緒にバスキングをしていた時だった。 彼はふらふらと弱々しく歩いてきたかと思うと、ポテッと地面に座り込み歌い始めた。しかし小さなおじいちゃんは人ごみにもまれ、すぐに見えなくなる。その歌声も雑踏にかき消されていた。

その様子が気になった僕はそのおじいちゃんの所に行ってみることにした。

「横でディジュリドゥを吹いてもいい?」

と僕が聞くとおじいちゃんはうれしそうにうなずいた。 バスキングの許可証を見るとマークと書いてあった。

「マークはどこからきたの?」

「Groote Eylandtっていう遠い島から来たんだ」

僕がGroote Eylandtを知っていると言うと、本当にうれしそうに微笑んで言った、

「じゃあブロルガ(豪州鶴)は知ってるかい?おおきな鳥なんだ」
「彼らは大空を旋回していくんだ、わしの大切な鳥なんじゃよ・・・」

そう言うと彼はそのブロルガの歌を歌い始めた。ちょっとしゃがれたその声にはブロンソンのような迫力や声量はないけれど、とても深みのあるやさしい声だった。

僕はマークのそんな歌声が好きだった。 彼の歌を聞いていると不思議な感覚を覚える。 周りの人ごみや雑踏がすこしずつ消えていき、マークの歌だけがとてもよく聞こえ始める。 余分な力が抜けていくというか、気持ちがリラックスしているのが自分でわかる。 そして「あーなんだか不思議な気持ちだなあ・・・」と思っているとパッと歌が終わり僕もハッと我に返る。

横を見るとマークがまたうれしそうに微笑んでいた。

「ブロルガが来ているよ。大空を旋回している、わかるかいブラザー?」

僕はブロルガを見たことはなかった。 なのになぜか知っているような、大空を旋回している姿が見えるような、そんな気がした。 ふっと気になって空を見上げると、すっかり日も落ちた空に星が輝いていた。

マークは僕の肩をポンとたたいて言った
「さあ、じゃあ次もブロルガの歌じゃよ、わしの大切な鳥の歌だからね、わかるかい?」

僕はその歌声に誘われるように静かにディジュリドゥを吹き始めた。

「みなさん、これはブロルガの歌です。みなさん、聞いてくださいブロルガの歌です・・・」

これがブロルガのソングマン、マークとの初めての出会いだった。


【ブロルガ・ソングの聞ける音源の紹介】

下記CDでブロルガ・ソングを聞くことができます。トラック1はマークが歌っていたブロルガ・ソングのうちの一曲です。また、このCDのジャケットでブロルガ(豪州鶴)の姿を見ることができます。

SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 2/Eastern Arnhem Land
CD 1962年 AIATSIS
東アーネム・ランドのNumbulwarのブロルガ・カラバリーを中心に、超絶ディジュリドゥ奏者MagunとMungayanaの弾けるようにリズミックなソロも収録!