ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -ついにNicky Jorrockに出会う編 3-

【超絶Kenbi奏者、Nicky Jorrok】

Kenbi Bar

港にあるマンドーラ・ビーチ・ホテル(Mandorah Beach Hotel)のバーの壁にはなんと「Kenbi Bar」という文字とKenbiらしき絵が描かれている!

Nicky Jorrokはこれまでも紹介したように『Rak Badjalarr』(CD 1959-200:AIATSIS)というCDの中ですばらしい演奏を披露しているKenbi奏者である。

この地域ではディジュリドゥのことをKenbi(Kanbiとも綴られる)、またはBambooと呼ぶ。詳しく聞くとBambooはより広い地域で使われている愛称のような名前で、彼らの言葉ではKenbiと呼ぶのが正しいようだ。


 

【Nicky Jorrockのスーパーサウンドを堪能することができるCD】

下記CDではBlack CockatooことDjoli Laiwangaの貴重な歌声を聞くことができます。

Rak Badjalarr RAK BADJALARR -Wangga Songs for North Peron Island by Bobby Lane
CD 2000年 AIATSIS 2,770yen
WANGGAスタイルのマエストロNicky Jorrockの頭の芯に響く中高音の倍音のメロディーがトランシー。WANGGAの最も秀逸な録音です。ブックレットの解説も濃厚39ページ!。


僕らがフェリーから降り立った港、マンドーラ(Mandorah)は『Rak Badjalarr』のライナー・ノーツの中にも登場するBelyuenコミュニティのアボリジナルの人々にとって重要な場所。今は小さなホテルが建ってはいるが、それ以外は一面ブッシュのとても静かなところだ。

港についてすぐ、心の準備もできないまま、いきなりNickyと出会ってしまった僕達。Nickyは僕が想像していたよりも若く、小柄で、とても気さくな人だった。しかもとんでもなくシャイで女の子が通るとうつむいてしまうような、そんな人。こんなことを言うと怒られるかもしれないが、「おちゃめなおじちゃん」ってのが第一印象だった。

僕らはマンドーラの照りつける日差しを避けるため海岸に生えていた小さな木の陰に座り、まずはMitchinが持参していたキリッと冷えたビールでこのすばらしい出会いに乾杯!そのビールのおいしい事といったらなかった。パリパリに乾いた喉をさらさらと流れ込む液体の感覚が手に取るようにわかった。そして僕らの会話は弾み、お互いに最初の固さがほぐれてリラックスしたいい空気がゆらりと流れ始めた頃、ついにNickyがディジュリドゥを手にとった。

Nickyはなんの準備も構えもなく、なにげなくKenbiを吹き始める。やわらかいその導入とは裏腹に、ディジュリドゥからは想像を超えた音が紡ぎだされていく。うねるような複雑で何層にも重なった深い音。心に直接響いてくるその音に僕は一気に引き込まれていく。

僕がずっと聞きたかった音。体が震えた・・。

そこにソングマンであるHenryのハミングするように軽やかで、優しい歌が重なっていく。
Nicky Jorrok on the Mandorah Beach

NickyのKenbiの音は想像以上に深く複雑だった。
(Copy right 2004 Nicky Jorrock)

「これはバッファロー・ソングだよ。バッファローが川(海)をわたっていくんだ・・・」

この曲はSongs From The Northern Territory1の13曲目に収録されている、僕のもっとも気に入っていた曲のうちの一つだった。

ゆっくりと流れる時間の中でNickyのディジュリドゥとHenryの歌が、海からの風にのって風景にとけこんでいく・・・。言葉も文化もまったく違うけれど、なぜか懐かしい気持ちがこみあげてくる。子守唄を聞いているような気分とでもいったらいいだろうか。彼らの演奏を聴きながら目の前に広がるマンドーラの海を眺めていると、ふと僕もなにかに触れられた、そんな気がした・・・。