ブラブラ日記 -Walking with Spirits フェス再び 後編3- |
【Walking with Spiritsフェスティバルの選択】
フェスティバルは、すでに後半戦に突入していた。期待していた内容と大幅に違ったことによるショックは予想以上に大きく、僕はTommyの単独ライブがはじまったころには炭酸の抜けたサイダーのようになっていた。それにしてもいつになったら伝統音楽のパフォーマンスが始まるのだろう・・。「まさかこのままTom
E Lewisオンステージで終わるんじゃないよな??」という不安が募りはじめたころ、舞台の袖に体中白いオーカーのペイントを施した人々が出現した!!
どこから写真を取っても必ず写るGORIくんのモジャモジャ頭!!兄さん、あきらかにジャマやから!どいてどいて!! |
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つっ、ついに始まるっ!
そう直感した僕はカメラ、ビデオと三脚、そしてカセットテープをなんとか脇に抱えこみ、人ごみを掻き分けて前へ前へと向かう。とにかく一番いい場所を確保しなければ!
やっとの思いで最前列に到着したと思ったら、最前列のさらに前、どうみたってほかの観客の視界をさえぎる位置にドッカリと腰を下ろし、テープレコーダーとカメラの準備をするGORIくんの姿が・・。
このおっちゃんにはかないまへんわ、ほんま。
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苦笑いしながら周りを見回すとノンくん、カズくんもいい位置に移動していた。さすがイダキ・ヘッズ!!自分が求めることに対する嗅覚はするどい。しかも僕たちが陣取った場所は目の前にディジュリドゥ奏者が座り、その横から順番にソングマンが座るというこれ以上ないほどの絶好の位置だった。
出番が近づくと、まずはNumbulwarの人たちが踊るのだろうか。僕たちが吹かせてもらったあの黒いLambirlbirlを抱えたGraemeが目の前に腰を下ろした。すかさず「Datpirrik(めっちゃかっこええでー)、Graeme!!」と声をかける。彼はこの声に気をよくしたのか「おっ!そうか?」みたいな感じでニヤニヤしていた。彼らとのこんなやりとりが結構面白い。しばらくするとソングマンが唄い始め、ついに伝統的な唄と踊りのパートが始まった!
Numbulwar地域の特徴でもあるソングマンの甲高い唄声が、Beswick Fallを取り囲む岩壁にこだましていく。GraemeのLambirlbirlの演奏は、つねにプレッシャーが高い状態をキープしながら早く吹くスタイル。この組み合わせがNumbulwarらしい。
一方目の前には、ギリギリまで落とされた照明に全身を白くペイントしたダンサー達がぼんやりと浮かび上がった。そしてソングマンの唄に誘われるかのように、しなやかな体から洗練された無駄のない動きが繰り出される。足の動きに合わせて空中に蹴り上げられる砂煙がライトに照らされ霧のようにあたりに広がっていった。
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男性が中央に踊り進むと後ろから女性が続く。どちらのダンスも見逃すことができない。 |
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うねるように、渦を巻くように高かまり続ける緊張。そしてソングマンの唄が終わると同時に、その張り詰めた緊張の糸は一瞬の内に断ち切られる。短い時間に「緊張と緩和の間」を行き来するこの感じが僕は大好きだ。唄、そしてダンスが終わった瞬間、堰を切ったように体から力が抜けていくのを感じる。波のようにザァァーっと戻ってくるリラックスした空気を吸い込みながら、体の底から湧き上がってくる興奮を抑えきれずにいた。いまこの瞬間に、やっとアーネム・ランドにたどり着いたんだ!という実感がわいてくると同時に、いままでの苦労が報われたと感じていた。
つづいてはWugularr有数のソングマンMickey Hallの伝統曲。僕が彼の唄を始めて聞いたのは2004年、キャサリンで行われていた「Corroboree」というイベントでのことだった。「Djilpinダンサーズ」という名前でクレッジットされていたのがMickeyを中心としたグループだった。初めて聞いた曲はMimi
Spiritsに関する唄。そしてMimiのペットだというWhite CockatooとBlack Kangaroo(Wallaroo)の唄だった。ダンサーのほとんどが酔っ払いという悲しい状況にもめげず、しらふで西アーネム・ランドの伝統的な唄を披露したMickey
Hallの声は、僕をシビレさせた。
伝統曲を唄っているときのMickeyは、普段とはまったく違う表情を見せる。彼の唄は何度聞いても全身に鳥肌が立つのを感じる。
© Mickey Hall 2005 |
この写真の使用は直接Mickeyから許可を頂きました。アボリジナルの肖像権を守るためにも無断転載禁止を遵守して下さい。 |
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コミカルなパフォーマンスが得意なMickeyだが、曲が始まるとそれまでと打って変わって眉間にすこし皺を寄せ、意識を集中するような真剣な表情。オールバックに固めた髪が彼の気合を感じさせる。伴奏をつとめるMago奏者は僕の知らない人物だった。WugularrにはまだまだMago奏者がいるのかもしれない・・そんな期待を抱いた瞬間だった。そしてMickeyが唄い始める・・。
高く透き通るような唄声がブッシュを包む暗闇にスウーっと消えていくかのようだった。岩壁に沿うように広がる夜空には明るい月が輝いている。MagoのサウンドはドップリとしていてNumbulwarのスタイルとはまるで異なった趣がある。
乾いた大地のユーカリの森の奥深く、たっぷりと水を讃えた美しいこの場所で、彼らが世代から世代へと唄い継いできたであろう曲の数々。それをいまこの場所で聞いている自分がいる。とても好きだったMickeyの唄を再び聞けたということに少し感傷的になったのだろうか・・、ここ2年の間に自分の周りに起こったさまざまな出来事が思い出されると同時に、ここまでのあらゆる苦労が洗い流されていくような気がした。ここに戻ってきて本当によかった!
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そして続く彼らのパフォーマンスは本当にすばらしいものだった。 しかし残されていた時間が短すぎた・・。伝統曲のパートは全体の20%程度の時間でアッという間に終了してしまったのだ。落とされていたライトがパッと明るく灯り、Tommyが満足そうな笑顔でステージ中央に登場したとき、なんとも言えない虚脱感が到来していた。これが今年のWalking
with Spiritsフェスティバルの選択か・・。
今回のフェスティバルは2004年の時とはその構成が逆転し、80%が現代的な演出、残り20%が伝統的な唄や踊りで構成されていた・・。そしてこれはフェスティバルの主催者であるTommyの演出だった。
Wugularrコミュニティのヒーローであり、近隣のほとんどのフェスティバルのオーガナイザーでもある彼のこの選択は、ある意味Wugularrコミュニティ全体の向かう方向性を示しているのかもしれない。そうだとすればアボリジナル伝統音楽や文化の維持、そして復権を切に願っている僕たちにとって、とてもつらい現実が待ち構えているような気がする。ただこの考えはあくまでもノン・アボリジナルである僕の一個人の視点にすぎないことを付け加えておかなければならない。
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テントに戻り今回のフェスティバル、そしてアボリジナル音楽の将来像について語り合った。 |
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これから彼らはどのような道を選択していくのだろうか・・。期待と不安が入り混じる複雑な思いを残したまま、Tommyの満面の笑みと「Bo Bo--!!(さよならー!)」という掛け声とともに2005年のフェスティバルは幕を閉じたのだった・・。
「アーネム・ハイウェイ -
Yirrkalaへの750km」編に続く。