ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 -Merrepen Art Festival編 3-

【リアルブッシュマン】

他のフェティバルも大体そうなのだが、ここMerrepen Art Festivalでもフェティバル期間中だけ特別にコミュニティ内にキャンプを張ることが認められていた。普段であるとキャンプはおろか、コミュニティに入るだけでも許可(Permission)が必要な場合が多く、それぞれの地域を管轄しているカウンシルに必ず確認を取らなければならない。詳しくは下記リンクを参照してください。

許可について

とにかく僕らは会場のそばの広場にその日のキャンプを設置することに決め焚き火をおこして夕食の準備を始めることにした。ただ、そのころにはあたりはもう真っ暗。まわりに明かりはまったくといっていいほどなく、薪を探してくるのもそう簡単ではない。

「どないしよー真っ暗やわ。ライトあったっけ?」

僕とのりくんが持ってきたであろうライトを探しているとき、ふと気がつくとユウジがいなくなっていた。

「あれ?ユウジは?」
「えっ、さっきまでそのへんにいたで」

そのときすこし離れた茂みらしき場所からガサガサと人が歩く音が聞こえた。その後・・・

バキッ!、バリバリ、ボキッ!、ボキッ!、バサササッ、ズルズルズルー。

リアル・ブッシュマン

この写真は見やすいように調整してあるのだが、周りは本当に真っ暗闇だった

明らかにおかしなサウンドのあと爽やかな笑顔で闇から現れたのがこの男、 自分の背丈よりでかい枝を引きずった「リアルブッシュマン」ユウジ。

この男、ほんとうに日本人なのだろうか?あまりにもワイルドすぎる。

もともと彼は僕よりかなり先にオーストラリアに入っており、ダーウィンのそばのハンプティドゥという町のファームで働きながらディジュリドゥ職人を目指していた。

一度彼が働いていたファームを訪ねたことがあるのだが、屋根しかない倉庫のコンクリートの上にテントを張り、夕方になると大群で襲ってくる蚊と戦いながら外でDVDを見るというわけのわからない生活を3ヵ月ちかくしていたらしい。そのとき大学の寮で個室に扇風機とクーラーという都会的な生活していた僕とのりくんには、とても考えられないほど苛酷な環境だった。


【リアルブッシュバーベキュー】

とにかくユウジのおかげで十分な薪が手に入った僕らは夕食の準備にはいることにした。 意気揚々と車から取り出した夕食のメニューは食パンと缶に入ったスパゲティー。のみ。何回確認してもそれだけ。わかってはいたけどなんかさびしくないか? 僕はこのメニューになぜか昼間の喪失感に似たものを感じて一気に落ち込んだ。

「なあ、このメニューなんかさびしくない?」
「そうですねー肉とかほしいですよねー」
「あっ、さっきのスーパーまだ開いてるかもしれへんで!」

さっきのスーパーとは、昼間に確認しておいたDaly River のパブのそばにあるなんでも屋みたいなお店のこと。

コミュニティ内または近所にこういうお店がひとつはあり、食料品から衣料品、雑貨、CDにいたるまで生活用品のほとんどが手に入る。というわけで僕らは気持ちを高めるためにも肉の塊を食うことに決めた。

ショップの写真

これがそのお店 気のいい白人が経営している 床が高いのは近くのDaly Riverの氾濫に備えているのだろう

僕は火の番をすることになり、のりくんとユウジがスーパーへと向かった。一時間は待っただろうか、えらい遅いなあとソワソワし始めたころ遠くから車のライトが近づいてくるのが見えた。そして広場の方へとおりてくる、と・・・

ブーン、ガタン、ガコンッ、グオーングオーン。スタック寸前。

待ちくたびれていた僕は助けに行く気にもならなかった。 それでも彼らはなんとか自力で焚き火のそばまでやってきた。 そして二人がおりてきて最初に言った言葉は

「まじで怖かったんですよー、ほんま真っ暗なんですよおー」
「道はまったく見えなし、いまもスタックしかけたし」
「それは見てた」

その日は曇りがちで月明かりもなく本当に真っ暗、ちょっと間違えば川に転落なんてこともありえるかもしれない。 それぐらい月明かりのないアウトバックの暗闇は想像を超えている。 だいたい、往復30分ぐらいの道に一時間近くかかっているのだから想像がつく。

「いや、正直な話、川に落ちてワニに食われてるかと心配したよ。で、スーパー開いてた?」
「はいっ、開いてました!でもねちょっと問題が・・・」

ノリくんとたき火

この焚き火の上に冷凍肉を直接おいて延々と焼いた

といいながら2人が持ってきたのはカチンコチンに凍った牛肉の塊だった。しかもご丁寧に「シチュー用」。おいおいっ!どないすんねんこれっ!僕は待ちくたびれたのと、そのショックでフラフラとその場に座り込んでしまった。

その後、僕らは焚き火に直接肉を置き、永遠とも思える時間をかけて焼いた。食べるときには外側は丸コゲ。その黒い物体は肉なのか炭なのかわからなかった。これこそリアルブッシュ・バーベキュー。ワイルドなことこの上ない。こんなハプニングはあったものの、わいわい言いながら肉を焼く過程は本当に楽しく、いつしか僕らは最初の元気を取り戻していた。