ヤス(カラキ ヤスオ)|在豪イダキ奏者
ブラブラ日記 2 -キャサリン回想 後編 4-

【そして僕たちはココズ・バックパッカーズに戻った】

タクシーでココズ・バックパッカーズに到着すると、管理人のトニーとオーナーのココさんが驚いたような表情で僕たちを迎えてくれた。

「オー!クレイジージャパニーズ!!みんな大丈夫だったのか?」

「今日、みんな退院できたよ!」

「本当に!?ラッキーなやつらだ!!」

Goriくんとのりくんが先に到着し、事故の状況を説明するとみんな一様に驚き、入院している僕たちの安否を気にかけてくれていたのだった。現地に暮らす彼らはダート・ロードでの横転事故がどれだけ危険かよく知っている。僕らの無事を確認して、「本当に良かった」とまるで家族のように喜んでくれた。そして「しっかり体を休めたほうがいい」と、部屋を特別料金で貸してくれると申し出てくれたのだ。

ココズ・バックパッカーズには何度となく滞在していた僕たちだったが、屋外でのキャンプではなく部屋に泊まるのは初めての経験。部屋に入ると、全員われ先にとベッドに倒れこんだ。

決して快適とはいえないギシギシと音を立てる頼りない2段ベッドも、少し弾力の足りないマットレスも、この時ばかりはまるで高級ホテルのスイート・ルームのように感じた。

そして、みんなまるで魂が抜けたかのような安らかな笑顔を浮かべ、自分たちの幸運をかみ締めながらゆっくりと眠りについたのだった・・。

死んだようにねむりこけた
ベッドに吸い込まれるように横になり、安らかな表情を浮かべるのりくん。

これが2004年9月に、僕たちが起こした大事故の一部始終である。

僕たちは心のどこかで「アウト・バックやブッシュを旅する」ということを甘くみすぎていた。その結果が大事故というはっきりと目に見える形で示されたのだと思う。そこは一歩間違えば死に至る危険な場所でもあるのだ。僕たちが身をもって体験したダート・ロードでの横転事故以外にも以下のような危険がある。

(1). 車のトラブル
ガソリン切れやパンク、エンジンのトラブルなどあげればきりがない。もし車が故障しても街が遠く離れていれば連絡の取りようがない。十分な食料、水などを持っていなければ命の危険も伴う。

(2). 川の増水
乾季には小川のような場所も、雨季には大きな川になる。また上流で起こった突然の雨で川が一気に増水し、川渡りの途中で車が孤立したり、押し流されたりする場合もある。

(3). 野生動物
特にソルトウォーター・クロコダイルという大型のワニが危ない。泳いでいて襲われたケースや、川のそばでバイクを洗っていて襲われたケースなどがある。僕が滞在して いる間にもキャンプを楽しんでいた家族が襲われた事件が報道されていた。
他にも野生のバッファローの群れも危ないらしい。

(4). 蚊やサンドフライが媒介する感染症
ブラブラ日記に登場するユウジや長谷くんも苦しめられた。処置が遅ければ手や足などを切断しなければならない、という事態になる。抗生物質を持っていったほうが無難。

(5). 暑さによる脱水症状や熱射病など
水がなければ簡単にこういった症状に陥る。倒れてしまっても近くに病院はない!

これらは決して起こりえない話ではない。

オーストラリアを旅するバックパッカーズには、思いつきや勢いでアウト・バックに向かう人たちが大勢いる。ディジュリドゥを吹く人たちのなかにも、アボリジナルの人たちの生活や価値観を無視し、なんの許可申請もせず、突然彼らの土地に足を踏み入れる心無い人たちがいるのも事実だ。

もしあなたがアーネム・ランドやブッシュに行きたいと考えているのなら、そんなことだけは絶対にやめてほしい。彼らの生活や価値観をリスペクトし、謙虚に彼らの話に耳を傾けるということを大切にしてほしい。 そしてさまざまなことを学び、なにごともなく無事に笑って帰ってこれますように。

そう祈りながら、ブラブラ日記は再び「ランドクルーザーの旅」へと戻ります。